実務家弁護士の法解釈のギモン

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設立中の会社の法理(2)

2013-09-05 10:36:55 | 会社法
 この、設立中の会社の法理は、私に言わせれば、何も会社という法人に限った話ではなく、他の法人一般に応用が利く話ではないかと思っている。

 たとえば、一般財団法人を設立するには、遺言で設立することも認められている(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)が、遺言の効力が生じれば(すなわち遺言者が死亡すれば)、即一般財団法人が設立されたものとされるわけではなく、やはりその後一定の手続を踏む必要がある。そのために、遺言の効力発生時と一般財団法人設立時には時間的なズレが生じる。しかし、それでも遺言で財産を拠出して財団法人を設立した場合は、遺言の効力が生じたときに、その財産は一般財団法人に帰属するものと見なされるのである(同法164条2項)。
 一般財団法人であっても、法人格を取得するのは一般財団法人成立時(現在の法律では、設立登記時)であるならば、設立時に一般財団法人に拠出する財産が一般財団法人に帰属するのは、一般財団法人成立時であり、遺言による設立ではない通常の場合は、条文上もそのことが明らかにされている(同条1項)。これに対して、遺言で設立する場合は、未だ法人格のない設立中の財団法人である遺言の効力発生時から一般財団法人に拠出する財産が帰属するというのであるから、論理矛盾的な側面がある。

 この、遺言により設立する場合の見なし規定のねらいは、拠出されるべき財産が、例え一時期でも被相続人から相続人に財産が帰属してしまうことを避けるねらいがある。つまり、遺言者の死亡時と一般財団法人設立時にズレがある以上、この見なし規定がないとした場合、このズレの期間中の拠出財産の帰属に困ってしまうのである。普通に考えれば、遺言者の死亡により相続の効力が生じるからいったんは相続人が相続し、その後一般財団法人が成立したら自動的に相続人から一般財団法人に財産が移転すると考えざるを得なくなるが、このようにいったん相続人が権利を取得するという構造そのものを法律が嫌ったということなのである。
 この見なし規定については、あまり議論されることはないようで、せいぜい一般財団法人成立によって、遡って拠出財産が一般財団法人に帰属するものと見なされるようになると考えられているようである。だが、ここで設立中の会社の理論が応用できると思っている。つまり、遺言の効力発生時に設立中の財団が認められ、この設立中の財団に、拠出されるべき財産が帰属すると考えればいいのである。