実務家弁護士の法解釈のギモン

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設立中の会社の法理(1)

2013-09-02 14:40:11 | 会社法
 久しぶりに古典的な論点について一言。

 会社の設立手続の中で、変態設立事項というものがある。大変に変な言葉であるが、立派な法律用語である。現物出資がその一例であるが、ほかに財産引受というものもある。財産引受とは、会社の成立後に財産を譲り受けることを会社成立前に約することである。

 ところで、設立手続中は、まだ会社として存在していないから、会社の代表者という者が存在しない。だから、会社成立前の約束事は発起人がせざるを得ないことになる。ところが、こうして発起人が約束した事柄が、法律の手続を踏むことによって、成立後の会社がこれを受け入れざるを得ない立場になる。これは、法律の認めた一定の範囲であっても、未だ法人格のない将来の会社のために、発起人が予め第三者と取引をすることを認めたことになるともいえ、そうした発起人の行為に、成立後の会社が拘束されることになる。

 本来、法人の権利能力は、法人として成立しなければ発生しないはずなので、会社成立前の取引行為は成立後の法人に訴の効力が及ばないはずであるが、財産引受の場合はなぜ成立後の会社を拘束するのか。その論理的説明方法として、設立中の会社の法理が使われる。
 この、設立中の会社の法理について、私には、半分以上は学者が言葉の遊びをしているとしか思えないのだが、講学上は立派な法理として存在している。
 その内容が何かというと、設立中の会社は、会社の成立を目的として存在する権利能力のない社団なのだといい、その執行機関が発起人だという。そして、設立中の会社と成立後の会社は連続性があり同一性があるというのである。だから、設立中の会社の執行機関が行った法律行為は成立後の会社を一定の範囲で拘束するのであり、これで財産引受をうまく説明できるというのである。そして、学説によっては、財産引受に該当する行為のみならず、発起人の行う開業準備行為の効力を広くみとめ、発起人の行う開業準備行為について、成立後の会社を拘束するという結論を認めようという考えも存在するようである。