実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権法改正-意思能力(3)

2013-04-25 14:58:59 | 時事
 また、過保護というのは、必ずしも本人の保護になるとは限らない。
 例えば、郊外に住んでいる高齢者が、駅近くに引っ越すために郊外の自宅を売却しようとする場合に、これと取引しようとする相手方としては、後になって意思能力の欠缺を理由に自宅の売却行為の無効を主張されることを恐れて、はじめから契約しないという事態が起こらないとも限らない。
 こうなってしまうと、自宅の売却そのものがスムーズに進まない。

 別の問題としては、例えば、何かの契約を締結して(例えば不動産購入契約)、金銭支払債務を負ったとする。その金銭支払債務を担保するために物的担保を提供したような場合、売買契約は理解できるが、担保提供契約は理解できないといったようなことが起こりえないのだろうか。法律行為ごとに意思能力を判断するとなると、このような問題も生じそうである。しかし、担保があるからこそ契約をしているのに、その担保提供契約のみ無効とされたのでは、取引の相手方にとってはあまりにも不意打ちである。

 中間試案での意思能力の規定は、おそらく消費者被害のようなものを想定しているのだろうと、私は勝手に想像しているが、正直なところ、実務家としては改正によって何がどう変わるのか、もっと具体的な事例を示した上で解説してくれないと、あまりイメージがわかず、かえって懸念の方が先に立つ。
 また、消費者被害のようなものを想定しているのだとすれば、民法典に規定するよりは、消費者契約法の問題として捉えた方がよさそうな気がしないではない。
 これまでの解釈どおり、事理弁識能力で意思能力を判断するのでは、だめなのだろうか。