実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権法改正-意思能力(1)

2013-04-18 16:59:38 | 時事
 債権法改正の中間試案では、意思能力について定義し、その効力について規定することが示されている。

 現在の民法典では、意思能力に関する規定はなく、解釈上意思能力のない者の法律行為は無効と解釈されている。現行法上明文の規定のない意思能力の問題について、明文規定を設けようということであろう。

 ただ、伝統的に意思能力とは「事理弁識能力」をいうと解釈されてきていたのではないかと思う。要は「事理弁識能力」を欠くことが常の状況にあれば、後見開始の要件に該当することになるが、これに合わせた解釈をしてきたと思うのである。つまり、「事理弁識能力」がなければ意思能力がない状態であり、それが常の状況であれば、成年後見開始の要件に該当するのである。

 ところが、中間試案の本文の案は、法律行為のときに、その法律行為をすることの意味を理解する能力を有していない場合を意思能力のない者としている。この試案は、ある法律行為をしようとするときに、当該その法律行為の意味を理解できるかどうかが問題とされるような定義の仕方となっている。要は、極端には法律行為ごとに個別に意思能力の有無を判断すべしということになってきそうなのである。
 実際、中間試案の解説では、意思能力の有無は画一的に定まるものではなく、当事者の行った法律行為の性質、難易等に関する考慮をも加味した上で判断されるという考え方が有力であり、本文の「その法律行為(をすることの意味)」という文言は、このような考え方に従うことを表しているという。そして、従来の裁判例においても、意思能力の有無の判断に当たっては当該法律行為の性質が考慮されてきたとの指摘があるというのである。
 実務家としての私の感覚としても、実際の裁判における意思能力の有無の判断では、その法律行為の性質や事柄の重大性が考慮されているような気がしないではないのも確かである。