実務家弁護士の法解釈のギモン

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定義規定の???(5)

2010-07-09 09:55:15 | その他の法律
 公開会社の定義(会社法2条5号)にいたっては、明らかにおかしいといわざるを得ないと思うのである。
 公開会社の定義を一言で言えば、「非公開会社でないもの」と、裏から規定されているので、非常にわかりにくくなっている。では、この「裏」に当たる非公開会社とは何か。教科書では一般に、全株式譲渡制限会社が非公開会社であり、従って、「表」にあたる公開会社は一部でも譲渡制限のない株式を発行している株式会社であれば、すべて公開会社であると説明される。
 しかし、会社法2条5号の「裏」の方を良く読んでもらいたい。「裏」の方に「『全部又は一部』の株式が譲渡制限株式の定款の定め」と読めるではないか。つまり、一部譲渡制限株式を発行する会社は、非公開会社であると、会社法2条5号には書いてあるように読めるのである。私の読み方に間違いはないと思うが、いかがであろうか。
 私の指摘どおりだとすれば、これは立法のミスである。立法作業は人間の行うことであり、ミスが発生するのも致し方のないことかもしれない。しかし、ミスだとすれば、早めに改正を行うべきであろう。

 そもそもが、現行会社法は譲渡制限のない株式を発行している会社を特別に「公開会社」と呼び、特別な定義を設けようとしていることに無理があると思われるのである。なぜなら、株式は、本来自由に譲渡できるのが原則なのだから、理論的には公開会社の方が原則的会社形態なのであって、非公開会社の方が例外的存在のはずなのである。例外的存在のはずである非公開会社ではなく、本来的には原則的形態のはずである公開会社の方に特別な定義を割り当てようとするから、その定義そのものも、裏から定義せざるをえないという非常に分かりにくいことになってしまい、それが立法のミスを招いているように思われるのである。
 会社法全体の規律の方法として、非公開会社たる最も小さい機関設計の会社を原則形態とした上で、機関設計が大きくなるに従って特則を設けるという前提で現行会社法を立法したという趣旨のことを聞いたことがある。だから、あたかも非公開会社が普通の会社であり、公開会社が特別の会社であるかのように定義し、公開会社の特則を各所で規律するという建前を取っているのだろうとは思う。
 社会の実態として、機関設計の規模の小さい株式会社が圧倒的に多いという前提での立法方法だとは思うが、法律家である私の見方からすれば、やはり理屈に合わないのである。そのため上記の立法方針も完全に貫かれているわけではなく、「公開会社でない会社」の場合の特則の規定も少なからず残されている。
 以上の結果、現行会社法の規定は、旧法で理解してきた法律家である私には、非常に読みにくい(ひいては理解しにくい)法律となってしまっているのである。