実務家弁護士の法解釈のギモン

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差押えの処分禁止効ってなんだ?(4)

2010-02-02 09:45:42 | 民事執行法
 実は,個別相対効と手続相対効に関する議論と,差押えの登記の対抗要件的効力(絶対効ではなく相対効である)とは,違うレベルの議論が混在しているような気がしてならないのである。

 先ず第一として,弁済金交付手続において,差押債権者及び配当要求債権者への弁済をしても余りがある場合には,その剰余金は「債務者」に交付されることになる(民事執行法84条2項)が,これは債務者所有の差押不動産が,競売による売却前に第三者に売却されていたとしても,剰余金はその第三者に交付するのではなく,執行手続上の債務者,すなわち差押時の所有者に交付することをも意味しているといわれる。これも手続相対効の一側面といわれていることは,既に以前のブログで述べたとおりであるが,この側面においては,一見,差押えの登記の対抗要件的側面のようにも見える。しかし,この側面は,実体法的対抗要件や順位保全的効力というよりは,執行当事者である「債務者」を「差押え不動産の所有者」という意味においても,強制競売開始決定時の債務者に固定して手続を進めるという意味で理解できるのではないかと思う。言い換えれば,手続上の当事者恒定的な側面で理解できそうな気がするのである。
 したがって,私の理解では,この側面での手続相対効とは,執行手続独特の当事者(差押え不動産の所有者)恒定的効力であって,実体法の効力とはあまり関係がなさそうである。
 そして,債務者が差押え不動産を第三者に売却したという実体的法律関係は,買受人に売却されてしまった後であっても,債権債務関係としては常に有効なのであって,買受人に売却されてしまった後の処理は,不動産を処分した債務者の第三者に対する債務不履行責任あるいは担保責任が問題になるに過ぎないと言えよう。この点は,仮登記のある不動産を第三者に売却したものの,仮登記が本登記になり,結局当該第三者が不動産を取得できなかった場合の事後処理と,全く同じである。