相手方の詐欺に基づく意思表示は,取り消すことができる(民法96条1項)が,この取消は,善意の第三者には対抗することができないとなっている(同条3項)。したがって,条文上は,第三者の保護は常にこの民法96条3項によることになるとも読めそうである。
ところが,現在の判例・通説は,96条3項が適用されるのは,取消の意思表示をする前に登場した第三者に限られ,取消の意思表示をした後に登場した第三者には,96条3項が適用されず,別の理屈で処理するという。なぜ取消後の第三者に民法96条3項が適用されないかというと,一般に,民法96条3項にいう第三者につき,詐欺による意思表示に基づいて新たに利害関係に入った第三者と定義的に説明され,取消の意思表示をした後の第三者は,利害関係に入った段階では,もはや詐欺による意思表示に基づたとはいえないから,民法96条3項が適用されないというように説明される。
そして,取消後の第三者の保護は判例や伝統的通説といわれる説は,取消により権利が表意者に回復する過程を復帰的物権変動なる言葉を用いて説明し,相手方から第三者への譲渡と,相手方から表意者への復帰的物権変動とを対抗関係と捉え,不動産取引の場合であれば民法177条で処理するとする。これに対し,有力説(現在ではもはや通説か)は,そもそも取消によりはじめから物権変動そのものが存在しなかったことになる以上,対抗関係に立たないとし,第三者の保護は民法94条2項を類推適用するという。
細かい点で異論はあるのかもしれないが,基本的に詐欺取消後の第三者について民法96条3項が適用されないというのは,ほぼ一致した見解といっていいのであろうか。
学生の頃,取消後の第三者の議論を初めて勉強した時は,その意外感を感じ,法律学の論理性及びその厳密性に,ある種の感動を覚えたものである。
また,これは実務家としての想像であるが,学説が民法94条2項の類推適用にほぼ固まってきている現状では,今後判例がでた場合には,民法94条2項類推適用に判例変更される可能性も決して少なくないと思われる。
が,しかしである。以上の判例や学説が本当に正しいのであろうか。
詐欺取消を例にして言えば,取消権を行使してしまえば,詐欺に基づく意思表示は理論的に消滅することになるので,取消後の第三者は詐欺による意思表示に基づいて新たに利害関係に入った第三者には当たらないというのは,確かに理屈である。しかし,実務家の立場からすると,あまりに観念論に過ぎるような気がしてならないのである。
つづく
ところが,現在の判例・通説は,96条3項が適用されるのは,取消の意思表示をする前に登場した第三者に限られ,取消の意思表示をした後に登場した第三者には,96条3項が適用されず,別の理屈で処理するという。なぜ取消後の第三者に民法96条3項が適用されないかというと,一般に,民法96条3項にいう第三者につき,詐欺による意思表示に基づいて新たに利害関係に入った第三者と定義的に説明され,取消の意思表示をした後の第三者は,利害関係に入った段階では,もはや詐欺による意思表示に基づたとはいえないから,民法96条3項が適用されないというように説明される。
そして,取消後の第三者の保護は判例や伝統的通説といわれる説は,取消により権利が表意者に回復する過程を復帰的物権変動なる言葉を用いて説明し,相手方から第三者への譲渡と,相手方から表意者への復帰的物権変動とを対抗関係と捉え,不動産取引の場合であれば民法177条で処理するとする。これに対し,有力説(現在ではもはや通説か)は,そもそも取消によりはじめから物権変動そのものが存在しなかったことになる以上,対抗関係に立たないとし,第三者の保護は民法94条2項を類推適用するという。
細かい点で異論はあるのかもしれないが,基本的に詐欺取消後の第三者について民法96条3項が適用されないというのは,ほぼ一致した見解といっていいのであろうか。
学生の頃,取消後の第三者の議論を初めて勉強した時は,その意外感を感じ,法律学の論理性及びその厳密性に,ある種の感動を覚えたものである。
また,これは実務家としての想像であるが,学説が民法94条2項の類推適用にほぼ固まってきている現状では,今後判例がでた場合には,民法94条2項類推適用に判例変更される可能性も決して少なくないと思われる。
が,しかしである。以上の判例や学説が本当に正しいのであろうか。
詐欺取消を例にして言えば,取消権を行使してしまえば,詐欺に基づく意思表示は理論的に消滅することになるので,取消後の第三者は詐欺による意思表示に基づいて新たに利害関係に入った第三者には当たらないというのは,確かに理屈である。しかし,実務家の立場からすると,あまりに観念論に過ぎるような気がしてならないのである。
つづく