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書評:海堂尊著、『玉村警部補の災難』(宝島社文庫)

2022年01月14日 | 書評ー小説:作者カ行

玉村警部補の巡礼』を読んで、そういえば前作の『玉村警部補の災難』の内容をほとんど覚えておらず、ブログに書評も書いていなかったので読み直してみました。
以前これを読んだのはブログを始める前だったのでしょうね。

この作品は玉村警部補が警察庁のデジタル・ハウンドドッグという異名を持つ加納警視正の桜宮市での活躍報告書を念のため東条大学の不定愁訴外来の田口公平先生に確認してもらうという形式で4つの事件簿が提示されます。

目次
0 不定愁訴外来の来訪者
1 東京都二十三区内外殺人事件
2 青空迷宮
3 四兆七千億分の一の憂鬱
4 エナメルの証言

各章の間に「不定愁訴外来の世迷い言」と題された玉村警部補と田口医師の事件に関するやり取りが差し挿まれます。

1つ目の「東京都二十三区内外殺人事件」では田口医師が東京に出張した際に「火喰い鳥」の異名を持つ厚生労働省の技官・白鳥圭介と夕食をともにし、帰り道でベンチの上に横たわる死体を発見します。白鳥はあろうことかその死体を近くの大通りまで運んでから警察に通報し、死体を監察医務院に運ばせて検死させます。その結果、殺人事件であることが判明します。
翌日一人で白鳥に紹介された店に行った田口医師は、帰り道でまた同じところで死体を発見してしまい、そのまま警察に通報したら神奈川県警が出てきて、死体は違う病院に運ばれて「心不全」の診断で「不審死」扱いされず、それを疑問に思った田口医師が口を出してしまって面倒なことに巻き込まれるわけですが、死因究明の地域落差を浮き彫りにさせるストーリーです。

2つ目の「青空迷宮」ではサクラテレビで落ち目の芸人を集めて迷路破りを競い合う企画で、参加者の1人が迷宮内でボウガンの矢で打ち抜かれて死亡する事件を扱います。加納警視正の推理力・捜査力が光る一編です。
芸人世界の世知辛さが漂う作品で、海堂尊氏のライフワークであるAiが登場しない珍しいものです。

3つ目の「四兆七千億分の一の憂鬱」は桜宮科学捜査研究所によるDNA鑑定データベース・プロジェクト、通称DDPによって死体に残された血痕から犯人が同定された初のケースを扱います。
DNA鑑定によって本人と同定された被疑者が被害者と無関係で動機がなく、通り魔殺人の犯人としても腑に落ちない点が多いため、加納警視正が冤罪を疑い捜査を始めます。
1つの証拠だけで犯人と決めつけてはいけないことのいい例ですね。

最後の「エナメルの証言」は次作の『玉村警部補の巡礼』に繋がる話で、東京から桜宮市に移転してきた指定暴力団の竜宮組幹部が立て続けに焼身自殺を図る事件を扱います。
その偽装焼身自殺を可能にしている死体の歯形をいじる歯医者・ネクロデンティストの仕事の描写が詳細で興味深いです。
死体の身元確認の手法として歯形チャートに〇×が書き込まれたものだけが用いられる検死の前時代的な杜撰さの隙が突かれています。
この作品では新設された桜宮Aiセンターが事件の半分解決のカギを握ります。



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