徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Murder on the Orient Express(オリエント急行殺人事件)』(HarperCollins)

2018年08月14日 | 書評ー小説:作者カ行

アガサ・クリスティーのあまりにも有名な『Murder on the Orient Express(オリエント急行殺人事件)』(1934)、ポワローシリーズの10作目ですが、タイトルしか知らなかった作品の1つです。

シリアでの仕事を終えたポワローは、イスタンブール発カレー行きのオリエント急行に乗り、イギリスへの帰途に就きます。一等車両にはポワローの他、様々な職業、国の出身者が乗り合わせ、季節外れなのに満席。その中の1人、アメリカの富豪サミュエル・ラチェットがポワローを知り、話しかけてきます。彼は脅迫状を受け取っており、身の危険を感じてポワローに護衛を依頼しますが、ポワローはラチェットにいい印象を抱かなかったので、「あなたの顔が気に入らない」と言って(!)断ります。 列車がヴィンコヴツィとブロドの間で積雪による吹き溜まりに突っ込んで立ち往生したまま迎えた翌朝、ラチェットの死体が彼の寝室で発見されます。彼は、何らかの刃物により全身を12か所に渡ってメッタ刺しにされて殺害されていました。現場には燃やされた手紙が残されており、そこから解読されたのは「小さいデイジー・アームストロングのことを忘れ」という言葉。ラチェットはかつて、富豪アームストロング家の令嬢である幼いデイジーを誘拐して殺害した犯人カセッティだった。最初に容疑者と目されたデイジーの子守り役の少女は投身自殺し、妊娠中だったアームストロング夫人が事件のショックで早産して母子ともに死に、夫のアームストロング大佐も夫人の後を追って自殺した事件のことはポワローもよく知っていました。ラチェットの正体を知ったポワローは捜査を始め、友人で国際寝台車会社(ワゴン・リ)重役であるブックと、乗り合わせた医師コンスタンチンと共に事情聴取を行います。雪に閉ざされた列車からは犯人は逃げられないはずですが、乗客たちのアリバイは互いに補完されており、誰も容疑者に該当しない状況。現場に残された鍵は、「パイプクリーナー」、「Hの刺繍の入った高級ハンカチ」、ラチェットのパジャマのポケットから出てきた「12時45分で止まっている時計(犯行時間?)」。

車両の乗客全員の事情聴取と荷物検査の後、ポワローはみんなが嘘を言っている可能性に気づき、真実を推測し、もう一度関係者に確認を取ることで核心に迫りますが、結局犯人の特定には至らず、2つの推論を提示します。一つ目は殺人時間は時計が示す時間よりもずっと早く、犯人は最後に泊った駅で下車して逃亡したというもの、もう一つは、乗客全員が共犯関係者というもの。ブックは一つ目の推論をユーゴスラビア警察に伝えることを決めます。

逃亡した犯罪者に私的制裁を加えることを肯定する内容ですが、その判断が正しかったかどうかは議論が分かれるところでしょう。ユーゴスラビアの警察及び司法が信頼できない前提であれば、犯罪を「見逃す」選択肢が妥当かとは思いますが。

緻密に計算された証言と物証の提示とそのわずかに開いた穴を見出す作業は、正直疲れるもので、それほどワクワクドキドキ結末にむかって読み進むという感じではありませんでした。それでも意外な結末は「おおそう来たか」と感心するもので、苦労が報われるような気にはなれましたが。(笑)


書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)


ポワロシリーズ

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Murder on the Orient Express(オリエント急行殺人事件)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『The ABC Murders(ABC殺人事件)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Murder in Mesopotamia(メソポタミアの殺人)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『After the Funeral(葬儀を終えて)』(HarperCollins)

 

ミス・マープルシリーズ

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『The Mirror Crack'd From Side To Side(鏡は横にひび割れて)』(HarperCollins)

書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Sleeping Murder』(HarperCollins)