WEBマスターの読書日記

「木戸さんがこんなマメだったなんて」と大方の予想を裏切って続いているブログ。本、映画、感じたことなどをメモしています。

『カレーライスの唄』(著者:阿川 弘之)

2017-02-19 20:28:51 | 本と雑誌

最近、体温がやたら高い上に、前の日があたたかな一日だったため油断して、薄いニットにジャケットを羽織って出かけた土曜日。日が暮れ落ちるまでに体がすっかり冷えてしまい、歩きながら珍しくガチガチと歯が鳴るくらいの寒さ、予約してもらっていた鶏料理の専門店に駆け込んで一杯目から熱燗をお願いした。やがて運ばれてきた熱々のお銚子から、乾杯する間ももどかしくとろりとしたお酒を注いで口に含むと、体が優しく温もってきて、あぁ日本に生まれて良かったとしみじみした気持ちになる。青森のバーで凛とした飲み口の冷酒に目が覚めるような体験をしてから、お米のお酒の良さに開眼、ほのかに甘い雫が喉をするすると下っていく時の余韻がなんとも、ごはん好きにはたまらない。

文豪・阿川弘之氏の手による、お米の甘みと旨みがぎゅっと詰まったような大変味わいのある小説である。勤めていた出版社が倒産して失業しちゃった若い二人が、さまざまに試行錯誤しながら知恵を絞って、神保町に小さなカレー屋さんを開く。失敗あり失意あり、周囲の親切あり思わぬ幸運あり、その中に「ありがとう」と思わず言いたくなる話が幾つもはさんであって、心がほかほかと温まる。滋養深く食欲のわく小説といえば娘の阿川佐和子さんが書いた「スープ・オペラ」が秀逸で、私は毎年、夏場の前に食欲が落ちると読んでいたけれど、このお父さんのカレーの話もなかなかいける。昭和36年、終戦から日本が立ち直り、スパイスの効いた東京のカレーライスが一皿100円、まだ新幹線がなくて広島行には夜行の特急、ハムはパックじゃなく缶詰で・・・と、往時の街の風情も素敵。

カンカンに熱くしてもらった日本酒はとても喉ごしが良く、あっという間に一本目のお銚子が空になり、しばらく飲んでからフルボディでこくのある赤ワインに切り替えたが寒いせいか全く酔わなかった。カレー好きで週に一度は必ず食べるけれど、冬あったまるには黄金色のヒレ酒とかもいいな。それにはまずふぐを食べに行かなきゃ。ああそういえば、今年の冬は生牡蠣もジビエもまだ食べていないと、忙しいせいか本能が何かと食のベクトルに向かう。そのうち季節はもう春か。