gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』その6

2020-08-26 00:34:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

 サリーは旅に出た。彼女は行き先を教えてくれず、わたしが聞くと、「海外よ」とだけ言った。(中略)
 サリーは世間話をすることなく、いきなりわたしをハロウィーンパーティーに誘った。そのときまで、わたしたちの付き合いは仕事だけにかぎられていたので、その誘いはわたしにとって不意打ちだった。(中略)

(中略)「ハロウィーン当日に中止になったのは残念だったわ」
「なぜそんなことに」
「だれかが警察に通報したのよ」(中略)

第十三章 ツバメ
 彼女は二重スパイではない━━あたしはそう確信した。(中略)
 その映画に行ってから数週間のうちに、あたしはイリーナを自分のお気に入りの書店へ連れていき、各書店の長所や短所、自分がそこの経営者だったらどんなふうに改善するかについて語って聞かせた。(中略)
 そんなわけで、フランクから新たな頼みごとをされたとき、この仕事はちょうどいい気晴らし、もっと言えば必要な気晴らしだと自分に言い聞かせたのだった。

(中略)次の晩、グランドホテル・コンチネンタルミラノに到着した。(中略)
 これこそ、最高のとき、別人になる瞬間だ。(中略)

 開始から二十五分後を見はからって、パーティー会場に入った。(中略)イタリア人たちはやり遂げていた。『ドクトル・ジバゴ』は書籍になっていた。(中略)

 あたしは本の獲得には成功しており、その本は出かける前にホテルの部屋の小さな金庫に入れた。(中略)
 朝になり、アルカセッルァー二錠とルームサービスのあと、金庫から『ドクトル・ジバゴ』を取り出した。それをスーツケースにしまう前に、本を開いてみた。ページをめくっていると、一枚の名刺が落ちた。名前はなく、電話番号もなく〈サラのドライクリーニング店 ワシントンDC NWP通り2010番地〉という住所のみだ。あたしはその場所を知っていた。(中略)

第十四章 スパイ会社員
 本のことで友人に会うため、ぼくはロンドンへ向かった。(中略)
 キットにとって、そしてこれから二日間、ぼくを呼ぶすべてにとって、ぼくの名前はハリソン・フレデリックスであり、友人たちにとってはハリーだ。(中略)ぼくは若者ならではの感覚で確信した。心の奥底に、自分はロシア人の魂を持っていると。
 ぼくは偉大な文豪たちの研究に没頭した。(中略)
 ぼくのロンドン出張は、何か一冊の本が目あてではなかった。目的、あの本だった。我々はもう何か月も『ドクトル・ジバゴ』を追い求めていたのだ。(中略)

(中略)
 噂では、M16が最初のロシア語版『ドクトル・ジバゴ』を手に入れたのは、フェルトリネッリを乗せた飛行機が、偽の緊急着陸命令でマルタ島に待機させられていたときだという。(中略)
 外に出たとたん、雨は土砂降りになった。ずぶ濡れになってホテルへ帰り着き、部屋にはだれからの電話も取り次がないようにとフロントに頼んだ。「だれかから電話があったら、少し時差ボケなので休養が必要なんですと伝えてくれるかな」ぼくはそう言った━━ロシア語版『ドクトル・ジバゴ』は手に入ったも同然だと、CIAに知らせるための暗号なのだ。

第十五章 ツバメ
 十二月が訪れると、街は新雪におおわれた。あたしがイタリア版『ドクトル・ジバゴ』を聖パトリック教会の指定された告解室に置いてきたのは、ミラノから戻ったその日で、報告のために仮オフィスへ行ったのはその翌日だった。(中略)
 イリーナとあたしはリクレクティング・プールで会う計画を立てた。スケートをして、それからあたしのアパートでいっしょに夕食をとろうと。(中略)
 こんなことはやめなければという思いが頭から離れなかった。(中略)そんな思いをあたしが口に出すと、彼女はもう遅いと言った。「もう後戻りできないの」
 イリーナは正しかった。それは初めて天然色の映画を観るようだった。世界は一方通行だったが、そのあとすべてが変わったのだ。

(中略)ミラノのあと、あたしから報告を受けたフランクは満足しているらしかったけれど、あまり話を聞いていないようにも見えた。(中略)
「また、きみに頼みたいことがあるんだ」
「なんなりと」

(中略)
 大晦日のパーティーが開かれるのは、繁華街にあってワシントンDCで最高級だと言われている、ということは、さほどたいしたことはないフランス料理店〈ザ・コロニー〉だった。とあるパナマ人外交官が主催するこのパーティーは、基本的にオフィスの外でやるオフィスパーティーである。(中略)ただ、あたしは彼らと話をするためにそこにいるわけではない。あたしには別の任務があった。(中略)アンダーソンに踊らないかと聞かれ、あとでねと答えた。あたしは早くも、近づくようにとフランクから依頼されていた相手がダンスフロアの反対側にいるのを見つけていたのだ。(中略)

(今度は明後日へ続きます……)

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135

ポーラ・プレンティス『あの本は読まれているか』その5

2020-08-25 01:07:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

(中略)
「こんにちは(ボン・ジョルノ)!」セルジオは大声で呼びかけた。(中略)
「こちらへ!」パステルナークが言った。(中略)
 セルジオは『ドクトル・ジバゴ』がソ連国内で発禁扱いになるかもしれないなどと、予期していなかった。(中略)
「フェルトリネッリはひと足早くイタリア語の翻訳を始めさせることができますから、ソ連での出版に合わせて━━」
「出版はされない」
「ぼくはされると信じています」セルジオが続けた。(中略)
 家のドアがあき、パステルナークが大きな茶色の紙包みを持って現れた。(中略)「これが『ドクトル・ジバゴ』だ」パステルナークが包みをさし出し、セルジオが近づいてそれを受け取ろうとしたものの、彼はその包みを離さなかった。つかのま、ふたりともその包みを持っていたが、やがてパステルナークが両手を離した。「これが世界中で読まれますように」(中略)

 翌日、『ドクトル・ジバゴ』は西ベルリンへ向かった。セルジオはそこで原稿をフェルトリネッリに手渡しし、フェルトリネッリがそれをミラノまで持っていくことになっていた。(中略)

 テンペルホーフ空港で、セルジオはフェルトリネッリの乗った飛行機が着陸し、停止するのを見守った。(中略)セルジオは昼食にレストランへ行かないかと提案したが、フェルトリネッリはかぶりを振った。「いますぐ例のものを見たい」

(中略)
「きっと大ヒット小説になりますね」
「ああ、間違いない。ミラノに戻ったらさっそく最高の翻訳家に見てもらう手はずを整えてある。彼は正直な意見を言うと約束してくれているんだ」
「じつは、まだお伝えしていなかったことがあるんですが」(中略)
「パステルナークは、ソ連がこの小説の出版を許さないだろうと考えています。(中略)」
 フェルトリネッリはそんな懸念を一蹴した。「わたしも同じことを耳にしたよ。だが、いまそのことを考えるのはよそう。それに、わたしがその小説を持っているとソ連が知ったら、彼らは考えを変えるかもしれない」(中略)

第十一章 ミューズ 矯正収容された女 使者
 わたしの乗った列車が駅に着いたのは、モスクワで実りのない四日間をすごし、出版社に『ドクトル・ジバゴ』の出版を働きかけるという、さらに実りのない試みを行なったあとだった。(中略)
「今週は驚くようなことがあったんだ」ボーリャはそう言いながら、わたしのかばんを受け取り、それを肩からかけた。「予期せぬ客がふたりも来た」(中略)
「だれ?」(中略)
「イタリア人とロシア人だ」(中略)
「そのイタリア人はなぜ来たの?」
「彼は『ドクトル・ジバゴ』がほしかったんだ」(中略)
 わたしはモスクワへ行き、ボーリャから住所を聞き出していたセルジオの家の玄関を予告なしにノックした。(中略)
「原稿を返してもらってください」
「それは不可能です、あいにくですが。すでに翻訳作業は始まっています。フェルトリネッリ自身がそう言っていました。この小説を出版せずにおくのは犯罪だと」(中略)

 わたしの手からも離れていた。ボーリャはすでに許可を与えており、それについてわたしに嘘をついたのだ。(中略)

 私は自分にできる最大限のことをした。フェルトリネッリに原稿を返すよう圧力をかけてほしいと、ディアンジェロに懇願したのだ。そして、フェルトリネッリより先に『ドクトル・ジバゴ』を出版してもらえないかと頼むために、会ってくれる編集者には片っ端から会った。(中略)そこで当局の態度をやわらげることができないかと、文化部長ディミトリ・アレクセイエヴィッチ・ポリカルポフと会った。(中略)「『ドクトル・ジバゴ』はなんとしても返却されなければならない」彼は続けた。「出版されることは認められない━━イタリアでも、それ以外のどこであっても。(中略)」
「では、どうすればいいんです?」
「ボリス・レオニドヴィッチに、これからきみに渡す電報に署名するよう説得するんだ」
「どんな内容の電報ですか?」
「フェルトリネッリが所有している原稿は下書きであり、新たな原稿が近々完成するから、下書きのほうは大至急返却してもらいたいと。その電報に二日以内に署名しなければ、彼を逮捕する」(中略)

 実際、わたしはやった。ポリカルポフに言われたとおり、彼に頼んだ。(中略)
「わたしには防御など必要ない」
 わたしは腹が立ってきた。「じゃあ、わたしはどうなるの、ボリス? わたしのことは、だれが守ってくれるの?」(中略)「わたしは一度、送りこまれたのよ、矯正収容所へ。あなたのせいで」(中略)「わたしがあの場所へ入れられたのは、あなたのせいよ。あなたはまた、わたしをあそこへ送り返したいの?」
 ボリスはふたたび黙りこんだ。(中略)
 わたしは自分の寝室へ行き、ポリカルポフの電報を持って戻った。ボーリャはそれを受け取ると、読まずに署名した。

(また明日へ続きます……)

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135

ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』その4

2020-08-24 08:58:00 | ノンジャンル
 また一昨日の続きです。

(中略)彼女はその年月の二倍分も年をとっている。金髪はスカーフの下に半分おおわれているが、麦わらのようにつやがない。曲線を描いていた体は真っすぐになり、いまや口元にもひたいにも目の端にもしわが刻まれ、肌には染みや見慣れないホクロができている。
 それでもボリスはその場にひざまずく。彼女は以前にも増して美しい。(中略)

第七章 ミューズ 矯正収容された女 使者
 幾度、彼との再会を思い描いたことだろう?(中略)
 ポチマから戻ったあとのわたしは、遠慮なく、罪悪感もなく、彼の幸運の分け前を要求した━━服、本、食べ物、子どもたちの学用品、新しいベッドを買うお金などを。
 ボリスは執筆に関するあらゆる業務━━契約、講演会、翻訳作品への支払い関連を、わたしに一任した。(中略)

 その夏、わたしは彼のもっと近くにいたいと、イスマルコヴォ湖の向こう側、彼の家から歩いて三十分のところに家を借りた。(中略)

 夏が終わるまでに、学校へ戻るため子どもたちはモスクワに帰らなければならないので、そのときにはわたしまで帰ってしまうのではないかとボーリャは心配した。(中略)

 子どもたちは帰り、わたしは秋の終わりまでそのガラスの家に住んだ。(中略)
 その冬は、わたしが闇のなかですごした日々とはあまりにもかけ離れていた。友人たちがやってきたし、『ドクトル・ジバゴ』の朗読会が再開された。(中略)

 小説はほとんど完成していた。(中略)

 わたしの目に涙があふれてきた。「彼が死んだ?」
「終わった。わたしの小説は完成した」
 わたしはその原稿を編集し、タイプし直し、革表紙で装丁するように手配した。そして、モスクワへ行って印刷業者から三部受け取り、その箱を持ってまた列車に乗った。膝にのせたボーリャの言葉の重みを感じながら。(中略)
「わたしたち、見張られている気がするの」わたしはボーリャに言った。
「そうだね」彼はあっさりそう言った。(中略)

西 1957年2月~秋
第八章 応募者 運び屋 
(中略)
 その夜、わたしはもはやイリーナではなかった。ナンシーだった。(中略)

わたしはタイピストに応募して、別の仕事をもらった。(中略)その夜、何かがわたしのなかで解き放たれた。それまで自分にあることも知らなかった秘密の力が。自分が運び屋の仕事に適任であることに気づいたのだった。(中略)
 勤務時間後の仕事のほうが、覚えるのに手こずった。
 初めてその仕事にかかる日、どんなふうに訓練を受けるのかと尋ねると、リフレクティング・プールに面した標示のない臨時オフィスの住所が書いてある一枚の紙を渡された。そのオフィスで、わたしは毎日、退勤後にテディ・ヘルムズ幹部職員と会うことになっていた。(中略)そして、わたしは練習に励んだ。(中略)わたしが小さく巻いた紙片を空っぽの口紅容器からテディの上着のポケットに滑りこませてみせると、きみはもう本物のテストを受けられる準備が整ったようだと彼は言った。
「本当に?」
「確かめる方法はひとつだ」

(中略)
 テディは〈マーティンの店〉に入るとき、わたしの手を取った。(中略)(そこでイリーナはテディをタイプ課のみんなに紹介して回った。)

第九章 タイピストたち
 (中略)
スプートニク打ち上げの知らせがソ連部に伝わったのは、世界初の人工衛星が宇宙に到達し、96分ごとに地球のまわりを一周しながら、地上950キロほどのところを飛んでいると、ソ連の国営通信社タスが発表するより早かった。(中略)
十月がすぎた。(中略)
 十一月は、衝撃音とともに、というよりも爆発音とともにやってきた。ソ連がスプートニク2号を打ち上げたのだ。今度はライカという名前の犬を乗せて。(中略)
 CIA内のピリピリした雰囲気は増していき、わたしたちは男たちの定時後の会議のために残業を求められた。(中略)
 彼らには人工衛星があったが、わたしたちには彼らの本があった。当時、わたしたちは本が武器になりうると(中略)信じていた。(中略)
 というわけで、観測気球、偽の表紙、出版社、文芸誌が利用され、さまざまな本が秘かにソ連に運びこまれた。
 そのあと、ジバゴが登場する。(中略)

東 1956年
第十章 代理人
(中略)
 セルジオはまだそのようなヒット小説を見つけてはいなかったが、前の週に自分の机で目にしたニュース速報に、期待できそうな一文があった。「ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』の出版迫る。日記形式などで書かれた同小説は、半世紀あまりの長い時間を描き、第二次世界大戦で幕を閉じる」と。(中略)

(また明日へ続きます……)
(中略)

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135


ジョン・チェスター監督『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』

2020-08-23 11:06:00 | ノンジャンル
 先日、「あつぎの映画館kiki」にて、ジョン・チェスター監督・共同製作・脚本・撮影の2018年作品『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』を観ました。そのあらすじを、パンフレットの「introduction」の文章を手掛かりに書いてみると

 殺処分寸前で保護した愛犬のトッド。(真っ黒の中型犬)。
 その鳴き声や家具に傷をつけるなどの振る舞いが原因で、ロサンゼルスのアパートを追い出されたジョンとモリーの夫妻。
 料理家のモリーは、本当に体にいい食べ物を育てるため、夫婦で郊外に移り住み、果樹園と畜産農場を始めることを決心する。
 その話を聞いた友人や親せきたちは、みな「無謀だ」と言うが、いろんな場でその話をジョンとモリーがしているうちに、協賛者が増えだし、ついにスポンサーがつくことになる。
 そこでいよいよ土地さがしということになったのだが、彼らが見つけた土地はロサンゼルスから北へ車で1時間ほどのところ、そこに広がる200エーカー(東京ドーム約17個分)もの荒れ果てた荒地だった。そこは以前は草原が広がり、池や沼もあったところだったが、現在では砂漠化し、ミツバチの箱は打ち捨てられ、池や沼も干上がった状態だった。
 そこでジョンとモリーはまず井戸で水を汲み、農業用水を確保し、果樹を植えて行こうとするが、井戸水は途中で水漏れを起こすなどして、それなりの量が出るようになるまで、二人の悪戦苦闘が続く。
 一方、二人の農業に共感し、自然環境を生かした農業のアドバイザーとして彼らと行動をともにしたアールは、自然の食物連鎖や、各動物の自然との関わり合いを重視し、野鳥や虫が果樹を荒らしたり、コヨーテが鶏を襲ったりしても、彼らが自然界に生きる理由を考え、簡単に駆除したりしないよう、ジョンにアドバイスする。ただ、さんざん鶏の被害を被らされていたジョンは、昼間にコヨーテの姿を見つけると、つい銃で撃ち殺してしまい、「自然とともに行う農業」という理想が音を立てて崩れていく虚無感に襲われる。
 そしてガンを患っていたアールは、そんなジョンとモリーを置いて、急逝してしまう。哀しみに暮れるジョンとモリー。
 しかし結局、果樹を荒らしていたムクドリたちは、新たに現れた猛禽類が食べてくれ、果樹を覆っていたカタツムリは羊がなめるように食べ尽くしてくれる。アールの言っていたことは正しかったのだった。自然界で生きているものは皆何らかの役割を負いながらいきているのだ。
 そして二人の果樹・畜産農場が軌道に乗り、全世界から見学に訪れる人も現われ始めた年、彼らは巨大な規模の森林火災に襲われる。家畜を柵から解放して、番犬に後を任せるジョン。牧場の棟が3方から火に囲まれ、ついに皆で脱出するが、あと少しというところで、急に風向きが変わり、彼らの農場は救われる。
 そしてジョンとモリーの間に長男が誕生する。長男と一緒にカメラに収まる愛犬のトッド。しかしトッドも亡くなり、墓に埋められる。幼稚園生ぐらいまで成長したジョンとモリーの子供は、果樹のつまみぐいをして、ジョンとモリーの笑顔を誘う。そしてジョンは「自然は完璧だ」と改めて言い、映画は終わる。

 あっという間に終わってしまった1時間31分のドキュメンタリーでした。最後にはモリーの出産シーンまであり、動物の出産シーンをこれほどたくさん見ることができる映画も、めったにないと思います。そして若くして亡くなったアールの考え方に全面的に賛成する私なのでした。

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135

ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』その3

2020-08-22 00:34:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

(中略)
 フランクは硬い笑みを浮かべた。「じつは、きみが興味を持ちそうな話があるんだ」
 あたしは彼の声に耳を傾けた。
「ある本に関わる件で」

東 1950年~1955年
第五章 ミューズ 矯正収容された女
アナトリ・セルゲイエヴィッチ・セミョーノフさま
(中略)
 あなたは言いました。きみは夜ごとの会話ですべてを語ってはいないし、そもそもきみの「話」は穴だらけだと。(中略)人の心はけっして一部始終をありのままに記憶することができないのです。とはいえ、やるだけやってみましょう。
 わたしにあるのは、この削った鉛筆一本だけです。これはわたしの親指よりも短く、わたしは両手首にすでに痛みを感じています。とはいえ、この鉛筆がすり減って塵(ちり)になるまで書くつもりです。

でもどこから始めればいい?(中略)
 モスクワを出たあと、わたしたちはまず、女性看守たちが運営する一時収容所に着きました。(中略)
 到着後、数日経つと、彼らが夜にやってきて、監房142号を空っぽにしました。わたしたちは列車に乗せられ、(中略)唯一の停車駅はポチマだと告げられました。(中略)
 わたしたちはだれも踏みしめていない雪の上を進み、列車の線路をたどりましたが、やがて線路はなくなり、いちめんの白のなかに消えました。(中略)
 あれは『ドクトル・ジバゴ』そのものの光景でした。(中略)

 最初に、いくつもの監視塔━━そのひとつひとつのてっぺんに、くすんだ赤い星がついていました━━が、はるか彼方の高い松の木々の上から姿をのぞかせました。(中略)
 到着したのです。(中略)
 看守たちは列を三つに分け、わたしは自分の列について十一号棟へ行きました。アナトリ、わたしはそれから三年間をそこで暮らすことになるのです。靴をなくさないように足を引きずりながら。
(中略)わたしの信仰の対象は、ひとりの男性でした。詩人で、単なる人間の、わたしのボーリャです。そして、アパートから連行されて以来、ボーリャと連絡を取れなくなっていたわたしには、彼の生死さえわかりませんでした。
(中略)
(収容所長官は)何も言わずに机の引き出しをあけ、わたしに包みを渡しました。
「おまえさんにだ。この部屋から持ち出すことはできん。ここで読むしかない」(中略)
「なんですか?」
「たいしたものじゃない」
 包みのなかには、十二枚の手紙と小さな緑色のメモ帳が入っていました。(中略)見えたのは、その手書き文字━━彼の手書き文字。(中略)ボーリャは生きていたのです。(中略)いまもわたしが生きている証拠を見せろとボーリャが要求したため、わたしがその夜に手紙を読んだあとで署名した紙が、数か月も経ってから彼に送られたと知ったのは、ずっとあとになってからだったのです。(中略)

 親愛なるアナトリ、スターリンが死ぬ前の晩を覚えていますか?(中略)
 翌朝、夜明け前だというのに、収容所の拡声器から音楽が鳴り響きました。(中略)だれひとり、死んだのはだれかと尋ねませんでした。わかっていたのです。(中略)

 赤い皇帝の崩御後まもなく、わたしの五年の刑期は三年に短縮されました。(中略)
 アナトリ、矯正収容所を終えたわたしはモスクワ行きの列車に乗りました。(中略)
 それは四月で、モスクワは春を目前にしていました。(中略)列車は到着していました。わたしは恐る恐る線路を見通しました。彼が待っていると言っていたからです。

第六章 雲に住む者
(中略)
 オリガの声を聞いてから三年。彼女に触れてから三年。国立出版所編集部(ゴスリツイダット)前の公園のベンチが、最後だった。(中略)「黒い背広の男たちが」と母親は言った。「ふたり……いえ、三人……あの子の手紙を全部、本も……黒い車で」(中略)
「子どもたちはどこに?」ボリスは尋ねた。(中略)
「ふたりはここに? ふたりとも無事なのかい?」
 オリガの母親が返事をしなかったので、ボリスは子ども部屋へ行き、閉じたドアの向こう側でミーチャとイーラが静かに泣いているのを聞いて、安心するとともに同時に胸が張り裂けそうになった。(中略)

 列車が到着したら、オリガは四日がかりの旅を終える。ポチマから行進し、それから列車に乗り、別の列車に乗り換えてモスクワに帰ってくるのだ。(中略)

 ボリスは書き物机に向かう。(中略)
 階下の時計が八時を告げる。くぐもった音が聞こえる。オリガの列車が到着するまであと三時間だが、ボリスはまだ一語も書いていない。(中略)
 角を曲がったイーラは、ベンチに座っているボリスを見つけて手を振り、大きな笑みを浮かべた。(中略)
 いま、イーラは十五歳の若い娘で、母親の絹のスカーフを肩にかけていた。ボリスは彼女の美しさに目を奪われ、〈新世界〉編集部で初めてオリガを見たときと似た欲望のうずきを感じる自分を恥じた。(中略)

(続きはあさってにアップします……)

 →サイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135