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アレン・ネルソン『戦場で心が壊れて』その2

2019-10-25 06:51:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。

 1967年にベトナムから帰還して70年に除隊になるまでは、私は、アメリカ本土やハワイなどの海兵隊基地に勤務していたので、住んでいたのも基地の中でした。(中略)
 しかし除隊して、母と姉、妹の住むニューヨークの実家に戻ってきたとき、状況は一変しました。実家は、それまで私がいた環境とはまったく違った世界でした。家族を含め、多くの人がベトナムのことや軍のことに関心を持っていませんでした。そして、そういう環境に置かれて以降、私は悪夢やフラッシュバックに悩まされるようになったのです。
 そういう私をみて母も姉も妹も、驚き、おびえました。(中略)私は神経が異常に過敏になり、ささいなことで彼女たちを怒鳴りつけることもしばしばでした。(中略)それで私は家を出て、スラム街にあった廃墟のようなビルをねぐらに、ホームレス生活を始めたのです。
 (中略)海兵隊員はもともと、子どもや女性を殺すトレーニングを受けていたわけではありません。敵の兵士を殺すよう訓練されていたのです。しかし実際に戦場に行ってみると、敵の兵士はゲリラであり、どこにいるのかわからず、その妻や子どもたちが彼らを支援していたのです。したがって、女性や子どもを殺すことは、兵士への支援を断ち切ることになるし、隠れている兵士をわれわれの前におびき出すことにもつながりましたから、私たちは女性や子どもも攻撃の対象にしました。しかし、そういう人々を殺すように訓練されていなかった私たちは、それをした際、非常に困惑したのも事実です。(中略)
 そんな生活を送っていた私ですが、数カ月のホームレス生活の後、転機となるできごとが起きました。(中略)ある偶然から、スラム街にある小学校で、四年生の子どもたちにベトナム戦争の体験を話すことになってしまったのです。(中略)しかし、よみがえる戦場の光景に毎日苦しめられている私が、そんなことを語れるはずもありません。まして相手は子どもです。私は、ベトナムという国のこと、そこで多くの米国兵士やベトナム人が犠牲になっていること、戦争とは恐ろしいものだということを話しました。しかしそれはあくまで一般論としてであって、実際に私が行った残虐な行為については話しませんでした。(中略)私の話が終わって、子どもたちがいくつか質問をしてくれました。一通り答え、担任の先生が、「では最後に」といったときのことです。最前列に座っていた女の子が手を挙げました。
「ミスター・ネルソン」。まっすぐなまなざしでした。
「あなたは人を殺しましたか?」
 (中略)どれくらい立ちつくしていたか、よく覚えていません。私は、迷いに迷った末、目をつぶって、つぶやくように「YES」と答えました。(中略)子どもたちの顔を見るのが怖くて、目をつぶっていると、私の身体にだれかがふれました。見下ろすと、それは質問をした女の子でした。(中略)
「かわいそうな、ミスター・ネルソン」 
 その子は目に涙をためていました。やがて、ほかの子どもたちも次々にやってきて私をだきしめてくれました。私は驚きました。(中略)涙がほほをつたって落ちました。(中略)
 八歳くらいのときの、私の母に対する気持ちは、愛情と憎しみの混ざり合ったものでした。もちろん母ですから、当然愛してはいたのです。(中略)でも同時に私は彼女を憎んでいたのです。彼女は、女性であるため稼ぎも少なく、シングルマザーとして人々に見下されており、弱い存在だと思っていたからです。(中略)一方、私が受けた教育は、さまざまな形で暴力を肯定する内容を含んでいました。たとえば、学校で習うアメリカの建国以来の歴史は、白人が、先住民を攻撃してその土地を奪ったうえにアメリカができたというものでした。あるいは、第二次世界大戦のとき、日本の広島と長崎に落とされた原子爆弾は、戦争終結を早める役割を果たしたということも、教科書に書かれていました。(中略)そこには、「人を殺すことは容認されるのだ」という考え方がありました。(中略)
 戦場での殺人には二種類あります。一つは、一対一で相手を殺す場合、それからもう一つは、部隊で村を襲撃し、その全体を殲滅(せんめつ)する場合です。私は、戦場に行って最初の四カ月くらいは、自分が殺害した人間の数を数えていました。(中略)けれど四カ月たったころ、私はそれをやめました。数え切れなくなってしまったからです。(中略)どんなに人を殺しても、とがめられることがない、つかまることがない━━普通はありえないことじゃないでしょうか。(中略)そのときはっきりと、自分のような人間を増やしてはならないと思ったのです。

(また明日へ続きます……)

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