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船戸与一『金門島流離譚』

2008-09-10 17:35:44 | ノンジャンル
 高野秀行さんが推薦する船戸与一さんの「金門島流離譚』を読みました。1編の長編と1編の短編からなっています。
 先ず、長編の「金門島流離譚」。中国大陸から泳いで渡れる距離にある金門島は、実質的には中華民国に支配され、大陸と世界各地との密貿易の拠点となっています。そこで中国で作られた偽ブランド品を世界中に売る商売をしている日本人・藤堂義春をめぐり、偽ブランド品を買うロシア・マフィアの手先のルーマニア人、中国で作られた偽ブランド品を藤堂に売る中国人、中国のひとりっ子政策のため戸籍がない中国人、中国の公安部から処刑シーンのビデオを盗んだために、中国の国家安全部に殺される中国人の老婆と、政治犯として中華民国で長い間投獄されていた台湾の内省人らが暗躍します。知的障害の息子のためにベトナムから金で買われた花嫁が不能の夫の親、兄弟に犯され続け、そのベトナム人女性と恋仲になった台湾の原住民族の男がその兄弟を皆殺しにし、金門島に逃げて来たのを見た藤堂は、その男女に過去の自分を重ね合わせて助けようとしますが、最後には大陸を目前にして、台湾の暴力団によってカップルは爆殺されてしまいます。
 短編の「瑞芳霧雨情話」は、台湾の客家族の住む村の鉱山で、大日本帝国支配下の時代に、地元住民がどうような労働条件のもとで働かされていたのかを調査しにきた日本人の男と台湾人の女の大学生カップルが、地元のトラブルにまきこまれ、女性は輪姦され、男は輪姦した男たちを殺すという話です。

 船戸与一さんの小説は初めて読みましたが、著者は元々ルポライターで、小説に関しても実際の政治状況の中で物語を組んでいく作家とのことです。この小説でも金門島という特殊な政治状況を持つ場所を舞台に物語が展開していくのですが、特殊な政治状況を紹介するために物語が利用されているという印象を持ちました。主人公を中心に物語が進んでいくのではなく、主人公はあくまで様々な出来事の目撃者であり、その出来事はことごとくその場所での政治状況を表していて、主人公が自分から積極的に関与するのは、「金門島流離譚」では、殺人を犯した中国人とその恋人のベトナム女性のカップルを逃がしてやるという最後の部分だけであり、「瑞芳霧雨情話」では、やはり女性が輪姦され、男が復讐する最後の場面だけなのです。
 他にも物語に関係ないところでやたらに細部の描写が多いところや、「金門島」の方では、主人公がやたらハードボイルドぶるのも鼻につき、そして何よりもどちらの作品も悲惨な結末というところが受け付けませんでした。
 題材は面白いので、読んで損はしないと思いますが、皆さんはどうお思いになるでしょうか?