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中島京子『平成大家族』

2008-09-24 15:51:12 | ノンジャンル
 高野秀行さんがファンである中島京子さんの'08年作品「平成大家族」を読みました。
 引退した72才の龍太郎は妻の春子と住み、別棟に春子の母のタケが住んでいましたが、長女の逸子の夫・悠介が事業に失敗したので、逸子夫婦とその息子のさとるが一緒に住むことになり、タケを母屋の1階に住まわせ、1階にあった自分たちの寝室は、未だに定職に就かず家に引きこもっている長男の克郎の隣の部屋に移し、タケの住んでいた別棟に逸子の家族が住むことになります。ところが経済的理由で私立中を辞めることになったさとるが物置にひきこもり、夜中に隣の部屋から聞こえるキーボードの音にいらついた龍太郎が克郎を怒鳴りつけると、次の日から克郎はさとると部屋を交換して物置に住むようになり、その上離婚した次女の友恵が売れない若手芸人の子を妊娠して帰ってきてしまいます。さとるは公立中に通い始め、当初はいじめられないために保身に走りますが、それで1人の女生徒を傷つけることになり、以後いじめと戦う決心をします。さとるが決心した日に学校を休んだので、逸子はその原因を思い悩み、イライラが高じて家族に当たりまくります。タケはボケ始めていて、家族を時々戸惑わせます。小さい頃から期待されず存在を無視され続けてきた克郎は、太り続けた結果動くのが億劫になり閉じこもったのですが、5年前に5万円を元手にインターネット株を始めてから外に出ることを諦め、今では月に10万ほど稼ぐようになっていました。そして義理チョコをもらったのがきっかけで、タケのヘルパーの若い女性・皆川カヤノと付き合うようになり、徐々に外に出るようになっていました。悠介は求人ポスターを見て農作業の手伝いをするようになり、やがて本気で農業をする気になります。春子は6年ぶりに会った友人たちに子供たちについての悩みを打ち明けますが、平和ねえと言われてしまいます。帰りに夫が倒れたという知らせを受けますが、大事には至らず、夫の友人から気持ちを告白された後思い出し笑いしてしまいます。そして友恵は健太郎を産み、自分の姓にするために元夫に協力してもらいます。それからしばらくして皆川カヤノが克郎と結婚すると龍太郎と春子に告げ、2人の婚約を祝う家族総出の夕食会で、悠介が単身で1年千葉の農園の経営コンサルタントをしに行き、成功すれば逸子も行くという話を発表し、春子が龍太郎のプロポーズの言葉が「幸福な家庭を築こう」だったことを皆に教えると、悠介はお父さんがこの素晴らしい家族を作ったのだと涙するのでした。克郎たちが無事に結婚式を済ませた後、タケは急逝し、龍太郎はこの1年の出来事を書こうとしましたが、何一つ知らない自分に気付くのでした。
 家族を構成する一人一人が順番に語り手となって、物語が進んでいきます。今まで読んだ中島京子さんの作品「TOUR 1989」と「桐畑家の縁談」と比べて、一番面白く読めました。中でもタケが語り手となっている部分は、同じことを何度も口にしたり考えたり、時制が飛んだり、相手が誰だか分からなくなったり、認知症の父を持つ私としては、身につまされるほど描写がリアルで、また笑えました。他の登場人物も皆感情移入できる人ばかりで、久々にいい小説と出会えた気がします。コミカルな小説が好きな方にはオススメです。