一般財団法人 知と文明のフォーラム

近代主義に縛られた「文明」を方向転換させるために、自らの身体性と自然の力を取戻し、新たに得た認識を「知」に高めよう。

詩集『目に見えない世界のきざし』

2010-12-24 22:07:17 | 書評・映画評

詩集『目に見えない世界のきざし』                   
 

北沢方邦 様

 詩集「目に見えない世界のきざし」上梓おめでとうございます。
いつも、早々にお贈り下さりありがとうございます。
感想を書かせていただき、お礼の言葉に代えさせていただきます。

 今回の詩集には、これまでの北沢さんにはなかった新しい世界を感じさせていただきました。これはもう随分以前からの私の素朴な疑問でしたが、誰もが認める一流の論理で知的な文明論を展開される北沢さんが、そうした表現とはまったくかけ離れた、どちらかと言えば人間臭い、小説や詩の世界にどうして興味を持たれているのだろうか?と言うものでした。もう40年も前に、「いずれ時間が出来たら、ぜひ、小説を書きたいと思っているんだけど・・・」と言う言葉を耳にした時以来の、とても不思議なことの一つでした。

 その疑問が、今回の詩集を読ませていただき少しだけ解明できたように思います。「そうか、もしかしたら、文明論を得意とされる北沢さんが、最も表現したかった世界は、こうした詩や小説の世界にこそあったのかも知れない」ということです。

 北沢さんが長年探求され、広く社会に提言して来られた文明論の真髄「見える世界の文明から、見えない世界をも包含する新しい文明へ・・・・」と言う核心を、自ら率先して体現して見せるためには、論理の大きな壁である言語の世界を超えた表現が、ぜひとも必要だったのだという気付きでした。 

 それは、まさに、北沢方邦というこの宇宙にただ一人しか存在しない人間が、ただ、今、この一瞬でしかない時空の中で、新しい文明論の本質(リアリティー)を表現するためには、知も肉体も、論理も言語も超えた、その存在のすべてをそっくりそのままに顕すことの出来るパフォーマンスが、必要だったのですね。この詩集が、若い時にではなく、人生の集大成に取りかかった今のこの時だったと言うこともまた、大きな意味のあることだったと思いました。

 私にとって、この詩集は、まるでシェークスピアの戯曲を読んでいるようでした。知的で論理的で繊細な北沢流の神話が、素晴らしい装丁のイメージとあいまって、論理や言語の世界を飛び越え、読んでいる私の感性、知性、世界観を、そっくりとそのまま炙り出すような、そんな詩であったように思います。

 また、お宅にお邪魔して雑談をしたくなりました。そのうち、お伺いしたく思います。長年の念願だった詩集の完成、本当におめでとうございます。亡くなられた青木さんも、きっと心から喜ばれていると思います。ありがとうございました。                   

                           2010.12.22 橋本 宙八