えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

水族園のマグロの孤独

2015-03-26 09:26:56 | 歌う

            ・・・ 水族園のマグロの孤独 ・・・

 ♠ 見たくない葛西水族園のあの水槽のマグロ、ただ一匹の  松井多絵子

 1昨日の夕刊に、葛西水族園の水槽のマグロがついに残り一匹になった、という記事があった。この一匹はオスなのかメスなのかが気になる。マグロもメスの方が平均寿命は長いのか。ウサギは淋しいと死ぬという説があるらしいが、マグロだってあの巨大な水槽のなかで、孤独に耐えられるだろうか。一匹のマグロを見る大勢の見物客に囲まれていても、淋しいだろうなあ、残されたマグロは。

 海鮮寿司を食べながら「日本に生まれてよかった」、とおもう。外国でもかなり前から「すし」が人気らしいが、日本のようにさまざまな寿司を手軽に食べられないであろう。特にマグロはわさびや海苔との相性がよく私は鉄火巻が大好きだ。スライスされたマグロを生野菜と和え、ドレッシングをかけて食べてもおいしい。私はマグロの顔を見たこともなく、カットされたりスライスされたバラ色のマグロを食べている。

 ♠ 泳がねば死ぬとうマグロのごとわれは昨日も今日も一万二千歩

 マグロは口から鰓に抜ける海水で呼吸をするため、泳ぎ続けていないと死んでしまうらしい。休みなく泳ぎながら捕えられ私たちに食べられてしまうとは、マグロたちに申し訳ない。
葛西水族園回廊型巨大水槽を泳ぐマグロを見たのは10年位前だったか。夥しいマグロが
休みなく泳いでいた。みな同じ方向に泳いでいるのか衝突することもなくまるでマグロのマラソンだった。それぞれ少し離れてかなりの速度で泳いでいたように見えた。

 人間の私だって歩かなければ成人病になり死ぬような気する。毎日一万二千歩をノルマにしているが最近は一万歩も無理だ。ケータイの万歩計の記録は毎日が赤字である。水族園のだだ一匹のマグロよ、わたしのために生き続けてね。わたしが生きている間は。

                              3月26日  松井多絵子

 俳句情報  新刊句集

★ 岸原清行  第四句集 『天日』  本阿弥書店・本体2800円

                炭坑興り國興りけり竜の玉

★ 横尾嘉信編   『俳句ソングス』 マルコボ、コム・本体2000円

           俳句と音楽の共作。夏井いつき、神野紗希ら8人の俳句を。 

 


メールのように学生短歌を

2015-03-25 09:17:13 | 歌う

         ✉ メールのように学生短歌を ✉

 ケータイのメールをしながら、私はこれは短歌だと思うことがある。たぶんメールのように気軽に短歌を作っている若い人達が多いのではないか。大自然の歌よりコンビニの歌のほうが多くても、彼女や彼に話しかける歌ばかりでもいいのだ。そもそも短歌のはじまりはメールだったのだから。いま大学生短歌が盛んらしいが衰えないことを願っている。

 3月1日に 「大学短歌バトル2015」があり13の大学が申し込んだ。後援・角川文化振興会など。特別ゲストは 佐佐木幸綱、穂村弘、小島ゆかり、小島なお、8大学の対抗試合。

        早稲田大学短歌会 vs 大阪大学短歌会
        立命館大学短歌会 vs 北海道大学短歌会
        日本大学短歌会   vs 神戸大学短歌会
        東北大学短歌会   vs 京都大学短歌会

 判者(はんじゃ)=審判  方人(かたうど)=歌を提出する人  念人(おもいびと)=自陣の歌をほめ、敵陣の歌の欠点を指摘して議論を有利に導く。賞金は10万円。豪華色紙。

 ✿ 北海道大学が優勝

    最優秀方人は工藤玲音

     ★ 雪の上に雪がまた降る 東北という一枚の大きなハガキ    

 3月23日の 朝日「短歌時評」で 東直子は 大学短歌バトル2015について

 「大会の様子はインターネット動画サービス「ニコニコ生放送」で中継され、視聴者は約千七百人いたという。短歌への新しい層の参加者が確実に増えていることを裏付ける数字であると思う」 と述べている。

     ✉ メールでもいいのよ大学生短歌、大人になったばかりの歌を 

                       3月25日  松井多絵子 

   

 


朝日歌壇の番外地

2015-03-24 09:17:56 | 歌う

            ☀ 朝日歌壇の番外地 ☀

 朝日歌壇の選には漏れたけれど、ユーモア秀歌があり、不定期に「番外地」として紹介される。今日の朝刊に「番外地」の7回目が、永田和宏選者により書かれている。

 ◉ 閣議にて捻じ曲げられてしまったから七月一日は憲法危捻日  片桐正宏

 ◉ この解釈がいいねと首相が言ったから七月一日は再戦記念日  前山研一郎

 昨年7月1日に、集団的自衛権を認める閣議決定。解釈を変えるだけで、憲法九条を事実上骨抜きにするという<大変革>があっけなく決定されてしまう恐ろしさ。その七月一日をアイロニカルに覚えておこうという捻りだ。俵万智の 「サラダ記念日」 のパロディであると永田は解説している。

 ◉ 大臣があっさり辞任に追いこまる内輪ですまぬうちわ問題  夏川 直

 ◉ 少しずつアベノリスクが出はじめて突如解散 アベノリクツで  北条忠政

  内輪はうちわ リスクはリクツ これは川柳なら入選したのにと私は思うけれど。

 ◉ どうしても「てっぺん禿げたか」と聞こえるといまいまし気に禿げた友言う 遠藤 昭

 ◉ ぽっちゃりは気になるだろうでっぷりはなってしまえばそれだけのことよ 有馬純子

  これらは批評眼が容姿に向いていると永田和宏が指摘している。

 ◉ 就活と朝日歌壇は狭き門息子百社に私百通   小島 敦

 ◉ 悪きテスト隠すがごとくわが歌の載らぬ朝刊妻の目遠ざけ 草間暁男

 ◉ 基本的人権尊重忘れずに選んでくれよ俺の短歌を  清瀬雄斗

 「番外地」でひときわ異彩を放つのが、次の和尚。一度会ってみたいと永田選者は。

 ◉ 経読みて過分のお布施いただけばうれしくもありやましくもあり  岡田独甫

 ◉ お決まりの喪主の挨拶聞いており決まり文句の引導渡して  岡田独甫

 ここまで言って檀家は大丈夫かと、選歌会の席で盛り上がること頻りだそうだが、ここまで言うとはアッパレな和尚さんだ。「朝日歌壇・番外地」が毎週火曜日にあれば面白いのに。  朝日歌壇を成績不振で中退した私は 「番外地」の優等生になってみたくなった。

                    3月24日   松井多絵子

 


怒るピザパイ

2015-03-22 09:26:33 | 歌う

                ▼  怒るピザパイ  ▼                            

♦ わたくしの顔が怒っているような熱きピザパイを召し上がりませ君   松井多絵子

 「昼食はピザパイとトマトジュースのことが多いわ」と私が言ったら、「あら、お若いですね」と平成生まれの25歳が言う。彼女は私の昼食は「ざるそば」かと思っていたらしい。冗談じゃない。私の好物はイタリアン。「ざるそば」よりスパゲッティのほうが好きだ。ピザが日本に初めて登場」したのは60年も前とか。高度成長期とともに普及し今では多くの家庭のフリーザーに常にあるのではないか。本場とはやや異なるモチモチした、餅のような食感が日本人に好まれるような気がする。

 3月21日朝日の、作家・湯本香樹実の 「はじめてのピザ胸のときめき」 を読んだ。
昭和40年代、湯本が小学生のとき、母上と二人ではじめてピザを食べたのは駅の近くにできたばかりのレストランだった。直径20センチ弱、チーズも少なく、しょっぱくも甘くもなく、熱くもない、なんとも分類しようもない味と食感だった。帰路の夜道で母上に 「おいしかった?」と聞かれ「・・・よくわかんない」と応えた。いま思い出すのは、きらびやかな店でもピザそのものでもなく、「ピザって知ってる?」 そう訊いた母の目の輝き、その時の自分の胸のときめきであると書いている。

 和食が世界○○遺産になったらしい。日本の若者が和食に注目しはじめたようである。私は若い頃から外国好き。生きていたら百何歳の近藤芳美も外国が、洋食が大好きな歌人だった。まるで「おにぎり」のようにビザパイを手で掴み、ワインを飲みながら食べていられたこともあった。あの時のピザパイのおいしかったこと。近藤芳美と同じテーブルで向き合いながらピザパイを食べたなんてゼイタクな思い出だ。あのピザパイはチーズがうっすら広がり微笑んでいたのに。冷凍のピザパイに熱を加えると大人しかったピザが元気になり、ときには不機嫌になり怒りだす。召しあがる君次第でもあるが。

                        3月22日  松井多絵子

 

 


それぞれの卒業式

2015-03-21 09:14:55 | 歌う

              ・・・ それぞれの卒業式 ・・・

 春が始まる3月がなぜか淋しい。卒業式のせいかもしれない。永田和宏は『人生の節目で読んでほしい短歌』に、入学式と同様それぞれの区切りをつける大切な儀式として
卒業式の歌をいろいろ取り上げている。その中から4人の女性の歌を抄出する。

 ✿ 卒業を見送り続けついに我がこととなりゆく陽は三月へ   永田 紅

 永田紅は、永田和宏の長女である。大学、大学院と合わせて9年も同じキャンパスで過ごした。学部は農学部だが、父と同じ細胞生物学の分野で研究をしている。大学院の院生たちは次々に社会へ巣立つ。その下級生たちを身近に見てきた。卒業がついに我がことになる。三月の陽ざしがより明るく、より暖かく彼女を包む。

 ✿ 退屈をかくも素直に愛しゐし日々は還らず さよなら京都   栗木京子

 卒業は学業を卒えることだが、学生時代に過ごした町を去ることでもあると永田和宏は
この章で栗木京子の歌を取り上げている。青春の真っただ中の栗木京子の「退屈を愛した日々」が大学時代とは。なんともゼイタクな青春だ。結句の「さらば京都」に哀愁が漂う。

 ✿ 卒業式いたづらほどの髭生やしそれぞれの人生のまへに並ぶも  米川千嘉子

 「いたずらほどの髭」 を生やした卒業式の息子、それを見ている母親。それぞれの今後の時間を背負った若者の列。歌人としての米川千嘉子の眼差しが冴えている。母親として
の期待と不安も伝わってくる1首である。

 ✿ さんがつのさんさんさびしき陽をあつめ卒業してゆく生徒の背中  俵 万智

 卒業式を詠ったこの1首は、ほかの卒業式の歌とはずいぶん趣が異なり、その明るさが特徴でしょう。「さんがつのさんさんさびしき陽をあつめ」と言われれば、「さびしき」はずの陽もどこかはなやぐし、「卒業してゆく生徒の背中」はもちろん寂しげな様子はなく、空豆がはじけていくような軽やかささえ感じられます。と、永田の解説も明るい。

 卒業式の後には入学式、ことしの関東の桜の満開は4月上旬らしいので、さくらの花が
  入学式を飾ってくれますように。  3月21日  松井多絵子