♠ 吉岡太朗の歌集批評会 ♠
3月14日、吉岡太朗第一歌集『ひだりききの機械』批評会が中野サンプラザで盛会。
金原瑞人、というより芥川賞作家・金原ひとみ の父の、法政大学教授・金原瑞人は『ひだりききの機械』について、次のように書いている。~刺激的で、爆発的で、好戦的で、挑発的で、ちょっと下品で、ちょっとセンチメンタル~ 「図書新聞」より
吉岡太朗は1986年石川県生まれ。京都市在住。2005年より作歌を始め、2007年に『六千万個の風鈴』で短歌研究新人賞を受賞している。批評会のパネラーは宇都宮敦、高木佳子、江田浩司、司会は石川美南。
▼ 宇都宮敦は 「吉岡は短歌でSFを試みている」 と次の歌を挙げている。
南海にイルカのおよぐポスターをアンドロイドの警官が踏む
連作を横断するモチーフとして ひだりきき 綿毛と旅人 魚をあげている。
▼ 高木佳子は女性らしい感性で吉岡の次の歌に共感している。
鶏肉と卵売り場のこんなにもはなればなれになってしもうて
難しいことはもうわからんが布団干したら布団は干される
▼ 前衛歌人の江田浩司は、この歌集を次のように考察する。表現、モチーフ、批評など の二重性を内在する歌集であることが重要なポイントである。と。
欄干の汚れを指でたしかめてそれから浅く腕をあずける
後ろから乗って前から出るまでの市バスは長い一本の橋
江田浩司は、この歌集のなかの「切なさ、哀切感」のある叙情的な歌が多くの読者に
親しまれ、愛唱されると5首をあげたが、掲出の2首は私の特に好きな吉岡の歌だ。
約3時間の批評会で、吉岡太朗は最前列の左に座っていた。一言も発言することもなく、頻りにメモをしている。左手にペンを持って。歌集には尿や便など汚いものが頻出するためか、吉岡は図太い、野人的な男かと思っていたら、細身で長身のシャイな男、なのである。大人しい歌では彼は新人賞を取れなかったであろう。内面のどろどろしたもの、ひりひりしたものを奔放に表現した凄さ、今後も彼から目が離せない。
3月16日 松井多絵子