… かばん の中へ ・・・
♠ つり革につかまり重きカバン持つわたしの腕はわたしの履歴 松井多絵子
「かばん」 という短歌の結社がある。発行人は井辻朱美。二月号の表紙の絵は東直子。いま、歌壇の新鋭として注目されている彼女は「かばん」の会員。穂村弘も佐藤弓生も、谷川電話も。2014年第60回角川短歌賞受賞は谷川電話。とにかく歌壇で注目されている歌人たちの巣だ。その「かばん」の歌会に昨日午後1時~5時まで参加させていただいた。
会場の武蔵公会堂3階の部屋に入ると 「あら、クマさん」。久真八志さんが司会進行。彼の論文「相聞の社会性」が第31回現代短歌評論賞を受賞。1983年生まれ。授賞式のときは和服、長身で甘いマスク、まるで俳優みたいだった。昨日はカジュアルな服、彼の麗しき妻も出席して、15人の歌会。4時間もじっくり批評しあうゼイタクな歌会だった。
◉ 木の間より仰ぎて行けば日は高く光は金の綾なして振る 吉川満
◉ 大人用オムツ履かされて父は鯵の開きのように自己を投げだす 山下一路
◉ その頬のまろみがいけないその頬に唇からおまへに沈みゆく 佐藤元紀
◉ 被写体になれと言うなら体ごとキャンと光って眩ませてやる 斉藤見咲子
◉ 猫不可といわれる気分は面接に失敗するのとかなり似ている 三澤達世
◉ 維管束バナナのすじに名はありぬミカンの房のすじはアルべ 雨谷忠彦
◉ 薄味の淫夢の蛍そのぐらいの微弱フォースで結婚してみ 高柳蕗子
メモにはこの7首しか記されいない。2月号「かばん」を見ながらの批評なので初めて知る方が多い。注目した歌に印をつけたのだが、途中から混乱してしまった。まるで「かばん」のなかのものが入り乱れるように。 結社の名が 「カバン」 だったら 今とは異なるメンバーになったのではないか。「カバン」には書類や貴重品を入れて持ち歩くが 「かばん」は柔らかな素材でできたバッグを思わせる。自在な歌を発表できる歌誌なのだろう。
「かばん」 の皆さま 昨日の午後は若い私になることができました。
3月1日 松井多絵子