▼ 怒るピザパイ ▼
♦ わたくしの顔が怒っているような熱きピザパイを召し上がりませ君 松井多絵子
「昼食はピザパイとトマトジュースのことが多いわ」と私が言ったら、「あら、お若いですね」と平成生まれの25歳が言う。彼女は私の昼食は「ざるそば」かと思っていたらしい。冗談じゃない。私の好物はイタリアン。「ざるそば」よりスパゲッティのほうが好きだ。ピザが日本に初めて登場」したのは60年も前とか。高度成長期とともに普及し今では多くの家庭のフリーザーに常にあるのではないか。本場とはやや異なるモチモチした、餅のような食感が日本人に好まれるような気がする。
3月21日朝日の、作家・湯本香樹実の 「はじめてのピザ胸のときめき」 を読んだ。
昭和40年代、湯本が小学生のとき、母上と二人ではじめてピザを食べたのは駅の近くにできたばかりのレストランだった。直径20センチ弱、チーズも少なく、しょっぱくも甘くもなく、熱くもない、なんとも分類しようもない味と食感だった。帰路の夜道で母上に 「おいしかった?」と聞かれ「・・・よくわかんない」と応えた。いま思い出すのは、きらびやかな店でもピザそのものでもなく、「ピザって知ってる?」 そう訊いた母の目の輝き、その時の自分の胸のときめきであると書いている。
和食が世界○○遺産になったらしい。日本の若者が和食に注目しはじめたようである。私は若い頃から外国好き。生きていたら百何歳の近藤芳美も外国が、洋食が大好きな歌人だった。まるで「おにぎり」のようにビザパイを手で掴み、ワインを飲みながら食べていられたこともあった。あの時のピザパイのおいしかったこと。近藤芳美と同じテーブルで向き合いながらピザパイを食べたなんてゼイタクな思い出だ。あのピザパイはチーズがうっすら広がり微笑んでいたのに。冷凍のピザパイに熱を加えると大人しかったピザが元気になり、ときには不機嫌になり怒りだす。召しあがる君次第でもあるが。
3月22日 松井多絵子