「ほどほどの雨」
★『赤光』をじっくり読めというように雨音が重くなってくる夜
『赤光』~しゃっこう~は斉藤茂吉の第一歌集。23歳から31歳にかけての作品がおさめられている。10年以上も前のことだが、「あなたは短歌を読まず、詠んででばかりいるとアナタの作品は痩せてしまう」と言われたことがあった。だれに言われたか思い出せないが、歌人なら当然知っている名歌をほとんど知らずに、詠んでばかりいたのだ。詠むというよりメールを書くように。「自在なお歌ですね」などと言われても褒められたと思っていた。気ままにやっていたので、こんなに長く短歌と付き合ってこられたのかもしれない。
★亀が子を産むのは六月らしわれも一編の詩を産めるか雨夜
★四百の窓をひらいて我の詩を待ちわびている原稿用紙
原稿用紙を見ていると400の窓がみな「早く書いて」と私の文字を求めている。ような感じだ。
★雨はやみ人工池の水面はわれの笑顔をひたぶるに欲る
いつの間にか私の行動範囲には池が消えている。いや埋め立てられて家やビルが建てられたのだ。今頃なら蓮のうす紅の蕾が見られたあの池はない。駅ビルの人工池は水だけ。その水面はわたしの笑顔をしきりに求めているのだが。
6月25日 ほどほどの雨は止み日照り 松井多絵子