「あじさいの葉」
★あじさいの葉に水羊羹をのせるとき和服の母があの世より来る
松井多絵子歌集『厚着の王さま』より
水色のあじさいが青紫になっている。女なら三十路の半ば過ぎか。わたしだって三十代があった。あの頃はかなり「いい女」だったように思えるのは紫陽花のせいかもしれない。庭のあじさいの葉を一枚切り取りその上に水羊羹を置く。楕円の真緑の葉に長方形の水羊羹がよく似合う。食卓の水羊羹をながめながら、今年の前半が終わることに気づく。いつのまにか過ぎてしまった半年、わたしの好きな初夏が去って行くのだ。
あれは4年前の今頃だったか。或る料亭の客たちが刺身に添えてあったあじさいの葉を食べ、食中毒になり入院した騒ぎがあった。刺身に添えてある紫蘇の葉はかならず食べる私が、なぜか水羊羹のあじさいの葉は食べたことがない。庭の紫蘇の葉は虫に食われて穴だらけだが、その傍のあじさいは無傷だ。絵本には紫陽花の葉につねにカタツムリがいるが、我が家の紫陽花の葉には現れない。やはり毒があるのだろう。毒があるから色を変えながら咲き続けるのか。
★紫陽花に毒の潜むということを知りてもやはり紫陽花が好き
あじさいの葉にのせた水羊羹に緑茶を添えて、あの世からきてくれた母へ 「さあ、どうぞ、
私は太りたくないから食べないの」
6月23日 今日はやさしい松井多絵子