「毎日歌壇6月3日」
毎週月曜日の朝刊に掲載される「毎日歌壇」。この6月3日の加藤治郎選第五席の歌をとりあげてみます。 松井多絵子
★寂しくなる分からなくなる悲しくなるそして突然楽しくなる俺 (福岡市) 中村紀之
読みながら「春愁」という言葉をおもう。5月に詠んだのであろう。辺りは新緑、そのなかに色とりどりの花々、新しいことに挑戦したくなる頃だ。しかし自分は今、どうもうまくいかない。勉強、仕事、恋愛などなどのことで落ちこんでいるのだろうか。自然は活気に満ちているのに自分はダメだ。窓にひろがる青葉は元気すぎる。
「寂しくなる分からなくなる悲しくなる」と詠むマイナス指向の上句が一転してプラス指向になる下句。この一首が「俺」で終わるのが効果的だ。作者は九州の男。女々しいのはキライだろう。「ビールを一杯飲んだら突然楽しくなったのですか? 中村紀之さん」。
▲ボクだったあの子がいつしか俺になり一杯やろうと我をいざなう
松井多絵子歌集『えくぼ』より