えくぼ

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かたわれの耳輪

2013-06-21 15:13:26 | 歌う

             「かたわれの耳輪」

★耳の輪のひとつを失くし右の耳ばかりが風のうたごえを聞く
       
 数年前の初夏、Y子は大切な真珠のイヤリングの片方を失くしてしまった。「欧州の古城をめぐる10日間の旅」でのこと。最後の日にフランスの古城での晩さん会があり、ロングドレスに真珠の首輪そして真珠の耳輪の盛装。あこがれの古城へ向かう途中で左の耳にイヤリングがないことに気づいた。折角のワインに酔えずにホテルに帰る。部屋中をさがしても見つからないまま帰国したそうである。「あのイヤリングは48000円だったの。A短歌大会に応募して選者賞をいただいたときの「私へのご褒美」 ステージで賞状を頂いたときに付けた記念の耳輪だったのだ。

 私も耳輪の片方を失くしたことがあった。トルコ石の偽物だったが紺碧の海色の片割れがしばらく忘れられなかった。左右あっての耳輪なのだ。「片割れの真珠の耳輪はどうしたの?」Y子は冷めた珈琲を飲み干してから言う。「箱に入れたままよ。見たくもないわ」

 片割れは哀しい。定年後の夫をうるさがっていたK子は、未亡人になってから夫の事ばかり話す。「うるさい夫」だったのに亡くなってからは「優しい夫」に変わってしまった。

 そうだ!耳輪の片割れはまだ役に立つ。顔の右側は髪を垂れて耳をかくす。左だけ付ければいい。ワンポイントの美。ホンモノならば一点だけ光らせればいい。 「Y子よあなたは左の横顔がいい。授賞式やフランスの古城の晩さん会をあなたと共にした耳輪のかたわれを左の耳につけてごらんなさいな」 さて私の偽トルコ石の耳輪のかたわれは何処かしら。20年前の。
           6月21日  ねむいねむい午後 松井多絵子