「君にまかせたい」
★ギタリスト去りて舞台に椅子ひとつ明日のことは風に任せる
歌集『えくぼ』より
朝刊を開いたとき大きな活字の群れがわたしに迫る。~「君にまかせたい」と言われる部下になる51の考え方~。7万部突破とは7万人の人々がすでにこの本を読んでいるのか。「まかせる」のは相手を信頼しいるからだろうか。「面倒だから」という場合もあるかもしれない。
先日、グルメ老女S子とイタリアンの昼食を共にした。彼女は安くてオシャレなレストランを沢山知っている。1200円でデザートも付いたサービスランチ。わたしはメガネをかけてメニューを見るのが面倒なので、「アナタに任せるわ」という。彼女の味覚を特に信頼しているわけではない。「まかせる」と言いながら「肉ではなく魚にしてね」と言い「パンでなくライスがいいわ」そして「紅茶でなくホット珈琲にミルクを入れて」「デザートはチーズケーキがいいわ」などと。「まかせる」と言いながらまかせていない。
上司から「君にまかせる」と言われたら「自分は信頼されてるのだ」と喜びヤル気になるのは当然だ。ただ結果が「ダメ」だったとき上司は寛大だろうか。任せると言いながらトヤカク干渉したりしないか、仕事の一部ならよいが。世の中はめまぐるしく変わり先が読めない。
都心から離れた街にも「動く歩道」が多くなってきた。立っているだけで私を、この56・5キロをたやすく運んでくれる。
★見送りに行きて見送られておりぬ動く歩道に運ばれながら
6月28日 松井多絵子