ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

Oblivion

2008-10-28 01:04:01 | Weblog
この曲はバドパウエルの若いころの作品だけど、存在を知ってチェックしたのはチックコリアがさかんにソロで演奏するからだった。実はその前にパウエルの演奏は聞いていたけどあまり印象に残っていなかった。今思えば恥ずかしい話だ。チックの演奏を聞いてコードをコピーしてるうちにオリジナルを確かめようとバドパウエルのソロピアノをよく聴いてみるとその内容のすごさに驚愕してしまった。とにかく50'年代半ばのバドのピアノはすさまじい迫力だ。チックがほれ込むのも無理はない。曲自体は言い方は悪いかも知れないけど、なんの変哲もない構成なんだ。Ⅳ♯m7-5から4度進行で来てリピートの前はⅡ7でメロディーに♯11、16小節を繰り返す。最後はトニックの♯11。真ん中にサブドミナントとサブドミナントマイナーが組み込まれている。乱暴に聞こえるかも知れないけどこれぐらいの説明で分かるぐらいの曲の構造なんだ。いわばアドリブの練習曲のような・・・。クラシックピアノの練習曲集にチェルニーというのがある。誰でもやる有名な練習曲集だ。何段階かに分かれて何冊かになっている。ピアノを習うとほぼ例外なくそれを順番にやっていく。苦痛だ。こんなものをやって本当にピアノがうまくなるんだろうか?いつも疑問に思っていた。未だにその答えはわからない。でもチェルニーの曲をいくらうまく弾いてもそれで聴衆を魅了することはできない。パウエルのこの曲がチェルニーの練習曲と一緒だとは言わないけど、ジャズインプロヴィゼーションのすごいところは平凡な素材をプレーヤーのインスピレーションで芸術にしてしまえるところだ。パウエルの演奏はすごい。ジャズにおける曲と演奏の関係はこういうこともあるということだろう。


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