ジャズピアニストのジャズ批評

プロの耳で聞いたジャズをミュージシャン流に批評。

In A Mellow Tone Ⅳ

2012-01-20 02:06:49 | Weblog
この曲の頭のコードはⅡ7、いわゆる二次的なコードだ。このコードの呼び方はいろいろある。ドッペルドミナンテ?ダブルドミナンテ?まあどれでもいい。トナリティーからはずれたコードということだ。ここのメロディーは基音、Ⅱ7のコードの7THの音だ。明らかに和声的にはトニックのところ。ここにトナリティーからはずれた和声を持ってくるのが、ジャズのリハーモナイズの定番だ。もちろんメロディーの制約はある。和声の落ち着く場所に落ち着かないコードを持ってくる意味は何なのか?長い間わからなかった。でもこれが20世紀に生まれた音楽の傾向、人間の感性なのだ。音楽を時間と空間の芸術と捉え、考えていくとそこには深い哲学的な難問がある。底知れない問題だ。でも一方で現代の音楽をたった12個の音の組合せだと考えたら、その構造を熟知するのにそんなに時間はかからない。古典派以降の大家たちがそんなことにたどりつかないわけがない。12個の音の扱いかたは個人の力で把握できると思う。なのに時代によって音の表現方法がずいぶん違う。なぜなのか?それは作曲家もふくめたその時代の人間の感性、価値観、それの影響なのだ。音楽は「進化」してきたのか?いやそうではなくて単に「変化」してきたのだと思う。音楽教育を受ける場所がなかったからとか、まわりに情報がなかったからとかは関係ない。音楽構造についてベートーヴェンが現代の作曲家ほどの理解をしていなかったとは到底思えない。ああいう人たちは個人の力で行くとこまで行ってしまう。ただ時代の空気がベートーヴェンの音楽を要求していたのだ。数百年前の人たちはおおらかで宗教的だったのか?想像するしかない。音楽は過去の時代の雰囲気を探る手掛かりにもなるものなのかもしれない。

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