まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.基本的人権を保障していない国は?

2016-05-10 14:19:28 | グローバル・エシックス
今年度の 「倫理学概説」 の授業もやっと軌道に乗り、

GW前にまずは権利と人権はどう違うのかというところから話を始めました。

そういうことをちゃんと中学校や高校で教わっている人は少ないようで、

社会科や公民科の教員を目指している人も相当受講しているはずですが、

権利と人権の違いをきちんと答えられた人は、受講者80名中7名だけでした。

その回のワークシートでは、権利や人権についていろいろな質問をいただきましたので、

答えられるものについてはこのブログのなかで答えていきます。

この講義は隔年開講なので、以前にお答えした回答がブログの奥深くに隠れてしまっています。

まずはそれをご紹介しておきましょう。

  「権利と人権に関するQ&A」

  「Q.権利の資格を得る=義務を果たすということなのですか?」

この2つは大事なのでぜひ受講者の皆さんは読んでおいてください。

さて、今日取り上げるのはこんな質問です。

「Q.基本的人権を保障していない国を具体的に教えてください。」

この質問をくれた方はこんなふうに続けて質問してくれていました。

「Q.また、その国では基本的人権がない代わりに、
   日本には見られない制度や権利は存在するのかも知りたい。」

こういう質問にはどうお答えしましょうか?

これも以前に書いたブログ記事ですが、まずはこれを読んでみてください。

  「生きながら火に焼かれて」

基本的には本の紹介なんですが、だいたいどんなことが書いてあるか引用もしていますので、

この記事を読んだだけでもある程度のことがわかってもらえるでしょう。

基本的人権がない代わりにどんな制度が存在するかというご質問でしたが、

この本 (記事) では 「名誉の殺人」 という制度・風習のことが描かれています。

ウィキペディアの説明によれば、名誉の殺人とは以下のようなものです。

「女性の婚前・婚外交渉 (強姦の被害による処女の喪失も含む) を
 女性本人のみならず 『家族全員の名誉を汚す』 ものと見なし、
 この行為を行った女性の父親や男兄弟が
 家族の名誉を守るために女性を殺害する風習のことである。」

これは昔々の風習ではなく、現在も脈々と続く風習で、

2010年の1年間で約5,000名の女性がこれによって殺されているそうです。

この場合、殺されるのは女性だけであって、

この女性と婚前・婚外交渉 (場合によっては強姦) した男性はまったくお咎めなしです。

このように、女性の基本的人権が認められず、

男性にのみ特権が与えられているような社会、国家が現に今も存在しているわけです。

本を読むと、こういう国では女性は命の保障がされていないのと同様、

教育も受けることができないので、こうした風習をおかしいと思うこともできないようです。

あまりにも衝撃的な話なので、私もこの問題を 『高校倫理からの哲学3 正義とは』 に書いた、

「すべての人にあてはまる倫理はあるのか ―倫理とその普遍性―」 のなかで紹介しておきました。

興味のある方はぜひ読んでみてください。

そういえば質問ではありませんでしたが、こんな意見をワークシートに書いてくれた人もいました。

「私は男女平等の考え方には反対です。
 男と女はまったくちがう生き物なのになぜ同じ義務を負い、
 同じ権利を有する必要があるのか疑問を感じています。」

こう書いてくれたのは女性でした。

この人が男女をどういうふうに別扱いすべきだと考えているのか、これだけではよくわかりませんが、

「名誉の殺人」 のような別扱いも許容するのか、

いやさすがにそれは許容できないとするならば、

どういう思考枠組みを用いて許容できる別扱いと、許容できない別扱いを分けたらいいのか、

ぜひ考えていただきたいと思います。

私だったら、まずは基本的人権を男性にも女性にも平等に認めた上で、

さらなる追加的な別扱い (女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの保護等) を施すべき、

と考えるのですが、この人はそもそも男女平等なんてナンセンスと考えているのでしょうか?

この問題についても先ほどの論文でわかりやすく書いたつもりですので、

ぜひ授業時間外学習の一環として読んでみてください。