名匠、成瀬巳喜男監督の映画は、庶民階級のつつましい生活ものが中心で、貧乏くさいもの、やるせないものばかりで、監督には、”やるせなきお”のあだ名までついている。その監督が原節子を撮るとどうなるか。どきどきしながら、二本の映画を観た。”驟雨(しゅうう)”と”山の音”。結果から先に言おう。原節子は、小津安二郎映画のイメージをぶちこわされ、原せつなき子になっていた。
”驟雨”では、戦後のおんぼろ長屋に住む、結婚4年目の倦怠期を迎えたサラリーマン夫妻の日常をコミカルに描く。夫婦喧嘩はしょっちゅう。そこに新婚旅行中だったはずの、姪の香川京子が現れ、もうあんな人いやだ、と愚痴る。佐野は香川の夫の弁護をする、男というものはそういうもんだ、と。原節子も同意しながらも、怒りの矛先は次第に、佐野に向かってゆく。
野良犬のめんどうみたり、その犬がつかまえた近所の鶏を料理して、不景気な会社を辞めて早期退職してみんなで串かつ屋を共同経営しようと相談している夫の仲間にふるまう。また、ああ、おなかがすいたと台所でお茶漬けを掻き込む。こんなシーン、小津作品には絶対ありません。
でも、庭で紙風船をふたりで突いて遊ぶラストシーンよかったな。突くたんびに、原節子が(弱っている夫に対し)”がんばれ”と元気な声をあげる。曇り空に薄日が差し込んできたようだ。
”山の音”は川端康成の原作。とはいっても未完のうちに水木洋子が脚本にした。はじめのシーンが、鎌倉駅。今に比べると、ずっと寂しげな駅前広場。そこから浄明寺行のバスが。今度の原節子が住む家は、古いお屋敷だ。ほっ、小津作品と同じ、と喜ぶのはまだ早い。優しい義父、山村聰と義母(長岡輝子)と一緒に住んでいる。ところが、夫の上原謙がとんでもない浮気男。やはりここでも、原節子は原せつない子になっていた。義父が気づき、息子の愛人に会いにいったりする。子供までできている状況。それでも、何とか終息への道筋をつける。
しかし、時は遅かった。実は原節子はせっかくできた子供を自分の意思で堕胎していた。そして離婚を決意していたのだった。冬の新宿御苑のプラタナスの並木で義父に打ちあける原節子。いつも彼女に愛情をそそいでいた山村聰は、やさしくうなづく。せつないラストシーンだった。これから、がんばって生きてね、菊子さん(原節子)と、映画館の中の誰もが、声をかけていただろう。
成瀬巳喜男作品のせつない原節子も、小津作品とは違ったいい味が出ていて、とてもよかった。
銀座シネパトスで2か月半に渡って、名匠・成瀬巳喜男シリーズが上映されている。もう一度くらい、行ってみようと思っている。二本立ての映画も久しぶりのことだった。
驟雨

山の音


”驟雨”では、戦後のおんぼろ長屋に住む、結婚4年目の倦怠期を迎えたサラリーマン夫妻の日常をコミカルに描く。夫婦喧嘩はしょっちゅう。そこに新婚旅行中だったはずの、姪の香川京子が現れ、もうあんな人いやだ、と愚痴る。佐野は香川の夫の弁護をする、男というものはそういうもんだ、と。原節子も同意しながらも、怒りの矛先は次第に、佐野に向かってゆく。
野良犬のめんどうみたり、その犬がつかまえた近所の鶏を料理して、不景気な会社を辞めて早期退職してみんなで串かつ屋を共同経営しようと相談している夫の仲間にふるまう。また、ああ、おなかがすいたと台所でお茶漬けを掻き込む。こんなシーン、小津作品には絶対ありません。

でも、庭で紙風船をふたりで突いて遊ぶラストシーンよかったな。突くたんびに、原節子が(弱っている夫に対し)”がんばれ”と元気な声をあげる。曇り空に薄日が差し込んできたようだ。
”山の音”は川端康成の原作。とはいっても未完のうちに水木洋子が脚本にした。はじめのシーンが、鎌倉駅。今に比べると、ずっと寂しげな駅前広場。そこから浄明寺行のバスが。今度の原節子が住む家は、古いお屋敷だ。ほっ、小津作品と同じ、と喜ぶのはまだ早い。優しい義父、山村聰と義母(長岡輝子)と一緒に住んでいる。ところが、夫の上原謙がとんでもない浮気男。やはりここでも、原節子は原せつない子になっていた。義父が気づき、息子の愛人に会いにいったりする。子供までできている状況。それでも、何とか終息への道筋をつける。
しかし、時は遅かった。実は原節子はせっかくできた子供を自分の意思で堕胎していた。そして離婚を決意していたのだった。冬の新宿御苑のプラタナスの並木で義父に打ちあける原節子。いつも彼女に愛情をそそいでいた山村聰は、やさしくうなづく。せつないラストシーンだった。これから、がんばって生きてね、菊子さん(原節子)と、映画館の中の誰もが、声をかけていただろう。
成瀬巳喜男作品のせつない原節子も、小津作品とは違ったいい味が出ていて、とてもよかった。
銀座シネパトスで2か月半に渡って、名匠・成瀬巳喜男シリーズが上映されている。もう一度くらい、行ってみようと思っている。二本立ての映画も久しぶりのことだった。
驟雨

山の音

