版画家、一原有徳は1910年に生まれ、100年生きて、2010年に、100歳で天寿を全うした。で、今回の展覧会タイトルは”一原有徳 1910-2010”なのだ。だからと言って、0歳から100歳までの作品が展示されているというわけではなく、1959年(49歳)の作が最初である。なんと、50近くから銅板プレス機を購入し、制作を始めたのだ。
17歳で小樽の郵便局に務めはじめ、60歳の定年まで43年間、勤め上げている。その間、18歳頃から俳句をはじめ、九糸郎の俳号をもつ。さらに、登山家であり、小説家でもある。多芸多才なのである。本格的な版画制作は定年後だから、これは、いってみれば第二の人生の”仕事”。まるで、隠居後に日本地図つくりをした伊能 忠敬みたい(笑)。
一原の版画はモノタイプが原則。石板や各種金属の表面を叩き、梳り、腐食させ版として、通常、ひとつの色を置き、写し取る、一回勝負の作品。デカルコマニーもその一種だが、それよりは意識的だが、絵筆で描く抽象画とは随分違う印象を受ける。
色は基本的にモノクロームで、黒とブルーがメイン、あれ二見彰一(1932~)の版画と似ているな、と思っていたら、彼と交友があり、この展覧会にも彼に寄贈された一原作品が展示されている。
画題はほとんどついていないと同様で、記号のようなものばかり。作家の意思が示されていないから、観る人の自由で、何を感じても、思ってもいい。一原もそう思っているふしがある。で、ぼくも、こいつは、隕石みたいだな、とか音楽隊だ、おたまじゃくしだ、雨だれだ、水しぶきだ、腸の中だんべか、かたつむりずら、とかいろんなことを想像して回ったら、相当時間が経ってしまった。
面白くない美術はない、と改めて思った次第。
では、みなさん、これは何に見えますか?ぼくのつけた画題を添付しましたので、参考にしてください(笑)
白孔雀(羽根を拡げたところ)
波濤
かたつむり
箱根のホテルの庭でみたかたつむり
サーカス岩石 筑波山にもこんない岩石があったような気がする
地層
ふたりの裸婦
人影
海上の月影
そうそう、一原有徳は石や各種金属板を使っているが、それぞれにこんな印象をもっているようです。
石:もっとも自由なことはもっとも不自由なことである。
鉄:登っても登っても終わりのない岸壁
アルミニウム:叱ったり、だましたりしても言うことを聞かない悪妻がお世辞ひとつで笑顔をみせるようになる。だが、彼女のつくった料理はいつも塩辛い。
亜鉛:真実につきあっているつもりなのに、いつも裏切りをする友人。
さすが、小説家でもあるので、面白いたとえですね。
面白い展覧会だった。昨夕の落語会も面白かったデス。
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