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ダーリン三浦の愛の花園

音楽や映画など徒然なるままに書いてゆきます。

明日のためにその76-ケス

2013年05月04日 | ヨーロッパ映画
やるせない悲しさ。

日本は豊な国である。
労働階級制もなく、自由で望めば何でも出来る(但し金銭と努力は必要だが)
しかし最近の若者は「趣味」と言うものを持たない者が多数いる。
彼らの「未来」とはどのようなものになるのか私は想像もつかない。
今回紹介する映画は「ケス」
イギリスの社会派監督ケン・ローチの初期の作品である。
ストーリーを紹介しておこう。
父親がおらず母親と兄と暮らしている主人公ビリー。
彼はごく普通の少年で学校では良い生徒としてでなく悪い生徒として目立っている。
友達もいないし兄とは仲がとても悪い。
そんな彼は或る日ハヤブサに興味をもちハヤブサの巣からひなを盗み取る。
それ以来彼はハヤブサに夢中でハヤブサを調教することに喜びを見出す。
彼の努力の甲斐もありハヤブサは徐々に彼になついてくるのだが......
ビリーは何をやってもだめで、素行も悪い。
学校を卒業してからの進路もただどこかで働きたいとしか考えていない。
しかし彼がハヤブサを調教しているときは活き活きとしている。
兄との仲は劣悪でそれが原因でとても悲しいラストを映画は迎える。
さすがは社会派のケン・ローチ。
映画の焦点をぼかすことなく淡々と撮られている。
映画を観ながら今の日本の若者達はこの映画を観たらどう思うのだろうと考えた。
映画の撮られた時代も古く今となっては時代錯誤なところもあるだろう。
しかし豊な国日本に生まれた若者達にはたった2シリングでやるせなく悲しい結末を迎えるこの映画を是非観てほしい。
私の考えはただの「お節介」なのだろうか。
1970年、イギリス製作、1996年日本公開、カラー、110分、監督ケン・ローチ


明日のためにその74-夜と霧

2013年04月30日 | ヨーロッパ映画
二度とおこしてはいけない戦争の過ち。

第二次世界大戦。
もう70年近く終戦から時間は経過した。
人間には物事を「忘れられる」と言うある意味の特権がある。
しかしあの戦争の過ちだけは忘れてはいけないのである。
今回紹介する映画は「夜と霧」
第二次世界大戦下のナチスの強制収容所の物語である。
ストーリーはない。
当時現存した強制収容所の写真と動画(フィルム)で構成されている。
カメラはまず映画製作当時の強制収容所に入る。
そこから映画製作当時の強制収容所の様子と当時現存した写真やフィルムを交互に写し淡々と映画を進行させている。
特に後半のドキュメント映像はその衝撃に耐えかねるほどのショッキングなものばかりだ。
しかし目をそむけてはいけない。
なぜならそれらは本当に過去に起こったことなのである。
映画を観る我々はそれらを忘れてはいけないのである。
最後に映画は語る「過去の出来事とかたずけ本当の悲鳴から耳をそむけてはいけない」と。
監督はアラン・レネ。
現在も活躍中の映画界の重鎮である。
30分程度の短編映画であるがその衝撃に私は驚愕した。
是非多くの人に観ていただきたい重要な作品である。
1955年フランス製作、1961年日本公開、カラー/モノクロ、32分、監督アラン・レネ。

明日のためにその73-オレンジと太陽

2013年04月29日 | ヨーロッパ映画
児童移民の問題作

今の日本人の中で「自分何故此処にいて自分は誰なのであろう」と自問する人はまずいないだろう。
しかし40年程前にイギリスとオーストラリアで行なわれていた「児童移民」で扱われた人達は皆そう思っている。
今回紹介する映画は「オレンジと太陽」
昨年日本公開された問題作である。
ストーリーを紹介しておこう。
或る日社会福祉士の主人公マーガレットはオーストラリアから来たという女性に「自分が何者であるかルーツを調べてほしい」と依頼される。
そして数枚の資料を彼女から渡される。
興味本位で調査を始めたマーガレットだったが彼女の依頼には偽りは無くさらに背景にはとてつもなく大きな組織が関連していることを知ることとなる。
それでもマーガレットは調査を進めるのだが......
監督はケンローチの息子であるジムローチ。
父親ゆずりの社会的目線でしっかりつくられた作品である。
原作はマーガレット・ハンフリーズのノンフィクション「からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち」
何事にも負けずに時に気弱になるがマーガレットは大勢の児童移民者からの依頼を引き受け本当の親と会わせてゆく。
その行動は現在もまだ継続中であるという。
最近この事実をイギリス・オーストラリアとも認め公式に謝罪したという。
しかしこの児童移民の犠牲となった人達にはその謝罪がいかほどの価値になるものか。
厳しい労働、虐待あらゆる苦労を幼い彼等彼女等は経験したのだから。
私は自分自身がいかに幸せな環境であるかこの映画を観て思い知らされた。
マイナーな作品ではあるが是非観ていただきたい映画である。
2011年製作、2012年日本公開、イギリス映画、カラー106分、監督ジム・ローチ。

明日のためにその66-ニーチェの馬

2013年02月26日 | ヨーロッパ映画
力強い映像に圧倒される。

カメラ=万年筆。
フランスの映画監督「アレクサンドル・アストリュック」が提唱した理論である。
私たちは映画のカメラを通して物語を見る。
正確に言えば監督の意図としたカメラワークを通して映画に参加しているとも言える。
正に「カメラ=万年筆」の理論に合致しているのではないだろうか。
今回紹介する映画は「ニーチェの馬」
今までならここでストーリーを紹介するのだが今回は割愛させていただく。
そもそもこの映画に具体的なストーリーは無い。
ただただ父親と娘の数日の生活を映し出しているだけである。
しかし凄いのは映像力である。
台詞も殆どなく、エピソードも無い。
しかしカメラはその風景をとても力強く撮っている。
ワンシーン、ワンカットの長回しのカメラワークを多用しその映像の力強さには圧倒される。
あまり一般的な映画とは言いがたいのでお勧めできないが観る機会があれば是非観てほしい。
2011年製作、2012年日本公開、タル・ベーラ監督、第61回ベルリン映画祭銀熊賞。



明日のためにその61-砂漠でサーモンフィッシング

2012年12月22日 | ヨーロッパ映画
心温まる感動の一作。

「荒唐無稽」辞書で調べると「言動に根拠がなく、現実味のないこと。また、そのさま」と書かれて
いる。
今回紹介する映画「砂漠でサーモンフィッシング」は正にこの言葉を絵に書いたような作品である。
監督はラッセハルストレム「マイライフアズアドック」「ギグバートグレイプ」を撮った名匠である。
物語を少し紹介しよう。
イエメン富豪のイギリスでの女性代理人ハリエットは或る日彼から大変な注文を受ける。
「砂漠で鮭釣りがしたい」
この実現不可能であろう要求を彼女はその道のプロフェッショナルである水産学者ジョーンズに依頼する。
ジョーンズは「現実的に不可能」と彼女の依頼を拒否する。
しかしイエメンとイギリスの関係悪化のカモフラージュとしてその依頼をバックアップする女性が現れる。
内閣の広報責任者であるマクスウエルが国家プロジェクトとしてこの依頼を取り上げると言うのだ。
ジョーンズの心配をよそにこのプロジェクトは進んで行くのだか......
前半の創りがちょっと粗雑でどうなるのかと思い観ていたが、後半に行くほど創りもしっかりしてきて安心して観られた。
特にマクスウエルを演じた「クリスティン・スコット・トーマス」が良い。
とてもユニークな役を実に上手く演じていた。
そしてラスト、ほんの少しの希望と愛と友情が結び合った時、観ている者は感動をおぼえることだろう。
現在公開中。

明日のためにその58-情婦マノン

2012年12月01日 | ヨーロッパ映画
濃厚なる愛。

今の若者たちはどのような愛の形を持っているのだろうか?
草食系男子が増える中、男性から女性へ愛の告白もできない若者たちが増えていると言う。
今回はそのような男性に是非観てもらいたい映画を紹介する。
情婦マノン。
「恐怖の報酬」を撮ったアンリジョルジュクルーゾの作品である。
物語を少し紹介しよう。
主人公の男性ロベールは第二次世界大戦中フランスの或る場所でマノンと言う女性と出会う。
彼女は高級情婦で敵方に情報を漏らしていたのではないかと一般市民たちから罵声を浴びせられていた。
ロベールは彼女の危機を救い、お互い愛し合うようになる。
彼女の提案で彼女の兄が住んでいるパリへ身を移すことになった二人だったが......
この作品には濃厚な愛がある。
ロベールは彼女しか愛せない。
しかしマノンは奔放に愛を他人にも振舞う。
あまりにも悲しいラストで彼が「ようやく僕だけのマノンになってくれたね」と言う台詞は心を締め付ける強烈なものだった。
この二人の愛、是非草食系男子だけでなく多くの人に観てもらいたい作品である。
1948年、フランス映画、アンリジョルジュクルーゾー監督


明日のためにその53-アーティスト

2012年10月25日 | ヨーロッパ映画
古き良きアメリカンロマンス。

エジソンが覗き穴方式の映画を発明したのが1893年。
それに続きついに映画がスクリーンに投射される「シネマトグラフ」をその2年後の1985年にフランスのリュミエール兄弟が発明・実用化した。
当時の映画には音声がない「サイレント映画」ばかりであった。
しかし1927年音声の出る映画「トーキー」が開発されその第一号である「ジャズシンガー」が公開された。
今回紹介する映画は「アーティスト」
この「サイレント」から「トーキー」に移り変わったため落ちぶれたサイレント映画の男優とそれと入れ替わるように躍進したトーキー映画の女優の物語である。
あらすじにすこし触れておこう。
サイレント活劇映画のスタージョージはヒット作を送り続ける大スターであった。
あるときちょっとしたハプニングでベビーと言う女性と出会うことになる。
彼女はこのきっかけを利用し自分も女優としてデビューすることになる。
時代はやがてサイレントからトーキーの時代へ。
求められる俳優も様変わりしてしまいジヨージはすっかり落ちぶれてしまう。
しかしそれと逆にトーキーの売れっ子女優となったベビーはなんとか彼を立ち直らせようとするが....
この映画は全編サイレント、モノクロである。
しかし画面はしっかり撮られており創りもしっかりしている。
だが一つだけ難がある。
それは「日本語字幕」が一切ないのだ。
途中で出る字幕は全て「英語」
なさけないかなそれを読んでいるうちに字幕は消えてしまう。
自分に英語力があれば字幕を理解できたろうところが残念でならない。
しかしその字幕なしでもしっかり観られるように映画は創られている。
大変珍しい映画であるが是非観られることをお勧めする。
2011年フランス映画。1時間40分。第84回アカデミー賞作品、監督、主演男優賞受賞。

明日のためにその52-シベールの日曜日

2012年09月23日 | ヨーロッパ映画
ただただ純粋な愛。

大人になってしまうとどうしても感性が鈍り、つまらないことにばかり興味を惹かれるようになる。
映画や音楽など若い時期に感性を磨いておかないと年齢を積み重ねるごとに良いそれらに感動できなくなってくる。
若い時期はとても大事である。
今回紹介する映画は「シベールの日曜日」50年前に作られたモノクロのフランス映画である。
物語は記憶喪失になった主人公が或る日駅で少女と出会う。
その少女は寄宿学校へ父親に連れて行かれる途中であった。
何故か少女に興味を持った主人公は二人の後を追跡し、寄宿学校の場所を知ることになる。
ある事からその少女は両親に捨てられ寄宿学校に入学させられたということを主人公は知ることになる。
主人公は父親を装い、日曜日に少女に会いに行く。
少女は主人公を慕いそれから毎週日曜日に二人は湖のほとりで遊ぶことになるのだが......
この映画はまさに純愛の美しさを描いている、そして純真無垢な二人の行動をしっかり描いている。
しかし悲しい結末に胸が張り裂けそうになったのは私だけではあるまい。
1962年製作、監督セルズ・ブールギニョン、117分、モノクロ
ベネチア映画祭特別表彰、アカデミー賞外国語映画賞受賞。

明日のためにその29-普通じゃない

2012年03月23日 | ヨーロッパ映画
テンポよしユーモアよし。

もし自分と彼女の出会いが「天使」に導かれた運命的な出会いであったならどうだろう。
それもとっておきな矛盾的出会いであったなら。
今回紹介する映画「普通じゃない」はそのような題材に見事なテンポとユーモアを備えた作品である。
ストーリーは主人公の清掃員ロバートが突然くびにされ、それに怒った彼は社長室に直訴にゆく。
しかし全く相手にされなかった彼はその場に居合わせた社長令嬢を人質にとり、誘拐してしまう。
彼の車で連れまわされることになった彼女だが実はとんでもないおてんば娘であった。
更に彼と彼女を巡り会わせた二人の「天使」たちが物語りに関わってきて.....。
全編センスの良い創りとユーモアで観る者をあきさせないところはさすがである。
観た人が幸せな気分になれることも付け加えておこう。
監督はダニー・ボイル。
「シャロウグレブ」を引き下げて1990年代に突然現れたイギリスの監督である。
近作では「スラムドックインミリネオア」が有名であろう。
1997年公開、イギリス・アメリカ合作。

明日のためにその25-英国王のスピーチ

2012年03月14日 | ヨーロッパ映画
ゆったりとそしてしっかり創られた作品

吃音性、発声時に第1音が円滑に出なかったり、ある音を繰り返したり伸ばしたり、無音が続いたりする言語障害だという。
実際にこれに悩まされている人はかなり精神的にも重圧をかかえているのだろう。
「英国王のスピーチ」はこの吃音性に悩まされた英国のアルバート王子について描かれた作品である。
ストーリーは吃音性に悩まされていたアルバート王子はある日民間の医師であるローグを紹介される。
ローグは「王も平民も同じ」と王子に伝え、治療のときはお互い友人同士の呼び名で話すことを約束させられる。
最初は戸惑った王子だったがローグとの治療を進め行くうちに次第に効果が表れ.....。
この映画はじつに丁寧ににつくられていて安心して観られる。
久しぶりにゆったりとした良い映画を観られたと思う。
2011年日本公開。イギリス・オーストリア合作。アカデミー賞、作品、主演男優、監督、脚本賞受賞。