魅力的な演出、魅力的な演者たち。
第二次世界大戦が終わってから75年の時を迎える。
映画の世界に目を向けると、数多く製作されている映画に、ドイツの「ヒトラー」をモチーフにした作品が多いことにお気づきになるだろう。
20世紀を揺るがした「独裁者」まさにその所業は、悪魔に等しい物だった。
今回紹介する映画は「ジョジョラビット」。
一風変わった視点からヒトラーを捉えた作品である。
ストーリーを紹介しておこう。
ドイツの或るところに、母と二人暮らしの男児ジョジョが居た。
彼は妄想の中でヒトラーと話し、自分は純粋なナチズムを持った人間だと思っている。
しかし彼の本性は優しく、とても残酷なナチ党員にはなれない。
ある日ナチの少年たちがキャンプを行った。ジョジョもそこに参加する。
ある指揮官の大人からジョジョはウサギを手渡され、そのウサギを殺すよう命じられる。
しかしジョジョはウサギを抱いたまま、そのウサギを撫でるだけ。
業を煮やした指揮官は、ジョジョからウサギを取り上げ、いとも簡単にウサギを絞め殺し、捨ててしまう。
これを機にジョジョは「ジョジョラビット」と周りから揶揄される。
そんな折、ジョジョは手榴弾の訓練中に酷い怪我を負い、それがもとで最前線の任務からはずされてしまうのだが.......
最前線から外されたジョジョは、戦意高揚のポスター貼り等の任務につく。
彼の母はいつも優しくジョジョに寄り添う。
しかし彼女はレジスタンスで、戦争を終わらせようと言うステッカーを街の様々なとこに貼っていくのだ。
やがてジョジョは自宅に隠し部屋を見つける。
恐る恐る入っていくと、17歳のユダヤ人の女性が匿われていた。
彼は悩んだ、悩んで「彼にしか見えない」妄想のヒトラーに相談した。
当然ヒトラーはナチに誓いをたてたものなら、ユダヤは敵だと、徐々に吹聴する。
しかし、心優しいジョジョは、彼女を憎むどころか、淡い恋心を抱く。
そんな折、母が外出中に街に出たジョジョは、母が捕まり、縛り首にあって絶命しているとこを発見する。
ここのシークエンスが上手い。
一匹の蝶々を追いかけていたジョジョが、そのちょうど目線に母がいつも履いていた靴を見つける。それは彼が立った目線の先である。
映像はわざとフルサイズで、処刑場を見せずに、イメージでそれを分からせる手法は見事と言えよう。
この母親を演じたのが「スカーレット・ヨハンソン」美しく、気丈な母を見事演じている。
やがて戦争が終わり、ドイツが負ける時が来た。
ジョジョの妄想のヒトラーは、ついに彼の妄想から消えた。
ジョジョは、隠し部屋に隠れていたユダヤ人の少女を連れて表にでる。
この二人の最後の嬉しそうな笑顔が映画の救いとなっている。
因みにこの映画のファーストシークエンスの時に流れる音楽が、ビートルズの「抱きしめたい」のドイツ語ヴァージョンである。
映画に映るヒトラーを歓迎する市民を、ビートルズの人気絶頂のパロディにしているところがおもしろい。
また、エンドロールで流れる音楽が、デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」。
彼もまた東西冷戦時に、東ドイツ側をステージにしたライヴを行ったりして、平和の使者を担った歌手である。
この選曲にも監督のセンスの良さを感じずにいられない。
非常にしっかり出来、映画の本来を楽しめる作品なので、是非多くの方に観てもらいたいものである。
2019年、ドイツ製作、カラー、108分、監督:タイカ・ワイテイテイ