石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(23)

2010-11-05 | 中東諸国の動向

米軍乗り出す(3)

イスラエル政府からナタンズ爆撃計画を打ち明けられ支援を要請されたとき、ホワイトハウスはついに来るべきものが来た、と受け取った。支援とは飛行ルート上のヨルダン、サウジアラビア及びイラクが余計な手出しをしないよう米国の外交的影響力を行使する、ということに尽きる。3カ国のうちヨルダンとイラクには手出しする能力がないから問題外であり、問題はサウジアラビアである。彼らはイスラエルと同等の空軍戦闘戦力を持っており、それは米国が与えたものである。

結局ワシントンはサウジアラビア国王にイスラエル機の上空通過を黙認するよう説得した。イランの核施設を破壊すればサウジアラビアを含む近隣アラブ諸国にとってもメリットがある、と説いたことは勿論である。前後して国防長官がサウジアラビアの国防相に同じ申し入れをした。そのとき国防長官は爆撃完了後、空中給油機がアラビア半島上空で戦闘機に給油することにも触れた。

二日後、サウジアラビアの国防相は国防長官に爆撃機3機の上空通過を黙認する、と回答した。しかし給油機については何も触れなかった。国防長官は一瞬問い返そうとしたがその言葉を飲み込んだ。イスラエルのナタンズ爆撃さえ成功すれば十分な成果だ。それによりイスラエル、サウジアラビアそして米国自身も大きなものを得ることができる。その後の空中給油は外交的には大きな問題ではない、と考え直し国防長官はそれ以上深追いしなかった。

ただ国防長官は国防相の電話の声に含みがあるのを聞き逃さなかった。部下の空軍参謀本部長が懸念していた作戦をひょっとするとサウジアラビアが実行するかもしれない-----。国防長官の予感は的中した。しかもそれは更なる不幸をもたらすものであった。

イスラエルのナタンズ爆撃当日、米中央軍現地司令部は軍事偵察衛星、AWACS、ペルシャ湾に浮かぶ原子力空母「ハリー・S・トルーマン」などあらゆる手段を講じて情報を収集していた。早暁にイスラエルの空軍基地から3機の編隊が飛び立ち、その後しばらくして大型機1機と戦闘機2機が同じ基地を離陸したことが確認された。最初の3機はイラクとサウジアラビアの国境上空を通過した後イランに侵入、ナタンズを爆撃した後、イランの追撃を振り切って領空外に逃れた。そこまではペンタゴンから聞かされた筋書き通りであった。

その後想定外の事態が発生した。後から飛び立った3機が途中でバラバラになり迷走を始めた。そしてそのうちの大型機と見られる1機が突然レーダーから消えたのである。その数分後、今度は爆撃を終えた3機がイスラエルへの帰還コースをはずれペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かい始めた。ウデイド空軍基地の現地司令部は混乱した。

(続く)


(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

荒葉一也:areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

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