石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

グローバルサウスに傾斜する中東北アフリカ諸国(MENAの多国間関係)(22完)

2023-10-19 | 中東諸国の動向

(注)本シリーズは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0586MenaMultiDiplomacy.pdf

 

6. その他の連携

 

(実利優先の兄弟愛!)

6-1. Abraham Accord(アブラハムの兄弟)

 

 2020年8月、ワシントンのホワイトハウにイスラエルのネタニヤフ首相、UAEアブダッラー外相及バハレーンのザイヤーニ外相が招かれ、トランプ米大統領(当時)の仲介で国交回復の歴史的な取り決めアブラハム合意が取り交わされた。

 

 アブラハムとは旧約聖書の最初の預言者であり、イシュマイル及びイサクの異母兄弟の父親である。イシュマイルの子孫は後にアラブ民族となり、イサクの息子ヤコブはユダヤ民族の始祖とされている。つまりアブラハムはアラブ民族とユダヤ民族の共通の始祖である。そのためユダヤ国家のイスラエルとアラブ国家のUAE及びバハレーンはアブラハムの兄弟(の子孫)であり、両者の外交関係樹立はアブラハム合意(Abraham Accord)とされたのである。

 

 血統的に兄弟民族であるとは言え、長く故郷のパレスチナを追われた(ディアスポラ)欧州のユダヤ人たちが第一次大戦後、祖国復帰運動(シオニズム)によりパレスチナに戻ると先住民のアラブ住民と激しく衝突した。第二次大戦後にユダヤ人は実力でイスラエルを建国、さらに数次の中東戦争で領土を拡充し、パレスチナ人を追放した。国境を接するエジプトとヨルダンはイスラエルと単独和平を締結したものの、その他のアラブ諸国はイスラエルと鋭く対立し、解決の道筋は全く見通せなかった。

 

 状況を変化させたのがアブラハム合意であり、世界中が驚いた。世界の常識の裏をかくのがトランプ大統領のお家芸である。イスラエルはイスラム教シーア派の大国イランの脅威におびえ、アラブ民族のパレスチナ人の抵抗に手を焼き、彼らを後押しする周辺アラブ諸国との絶えざる緊張関係に悩まされている。UAE、バハレーンとの和解はイスラエルにとって願ってもないことであった。一方UAE或いはバハレーンはどうかと言えば、アラブの大義を前にしてパレスチナ支援の旗を降ろすわけにはいかないが、イランやサウジアラビアに従って唯々諾々と反イスラエルの外交を持続することに疑問を覚え、世論も現状を認めイスラエルの最先端技術を導入する経済的実利に傾いている。外交面ではバハレーンに米第五艦隊の基地があり米国が後ろ盾としてシーア派イランの脅威から守ってくれる。

 

 利害の一致したイスラエルとアラブ2か国は手を結んだ。「アブラハムの兄弟」は友好のキャッチフレーズとして申し分がない。スーダン、モロッコも2か国に続いた。米大統領がバイデンに交代した後も大使館の開設、直行便の開設など関係は着々と強化されてきた。イスラムの盟主サウジアラビアは国王がアラブの大義に執心でイスラエルとの国交回復に慎重であるが、事実上の為政者ムハンマド皇太子は前のめりであり、イスラエルとサウジアラビアの国交回復は目前と言われてきた。

 

 しかしパレスチナ問題は経済的実利で脇に追いやられるほど簡単な問題ではない。ガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルに猛烈な反抗をはじめ、これに対してイスラエル軍がガザに侵攻する気配が濃厚である。世界もイスラエル支持とパレスチナ支持に二分し、グローバルサウスの国々はパレスチナを支持している。

 

 「アブラハムの兄弟」は仲直りするどころか新たな兄弟喧嘩を始めた。兄弟喧嘩の仲裁者は見当たらず、しかも多数の人命を危険に晒す泥沼に陥ろうとしている。

 

 

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     前田 高行    〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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