(英語版)
(アラビア語版)
Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」
43. パーティーにて(4)
ジョンストン空将の妻ヘレンは夫や夫の同僚たちに幻滅していた。抜群の反射神経を持ち状況の分析力にも優れた彼の夫は優秀なパイロットであり、同時に同僚たちから頭一つ抜けた如才のない秀才であった。決してハンサムと言えるほどの容貌ではなかったが、彼女自身も快活で陽気な彼に好意を抱き二人は周りから祝福されて結婚した。
ジョンストンは第二次大戦の南太平洋でゼロ戦を相手に勇敢に戦い多くの勲章を授与された。多すぎて軍服に付けられないほどの勲章を飾ってパーティーに出ると、彼はその一つ一つのいわれを自慢げに説明した。彼に寄り添うヘレンもそんな夫に尊敬のまなざしをそそぎながら誇らしい気持ちであった。しかしそのようなことが何度も繰り返されるとさすがのヘレンも最近ではうんざりであった。
ヘレンは夫が男仲間と武勇談の掛け合いを始めるとその場をそっと離れ、顔見知りの夫人たちが一人の浅黒い精悍な軍服姿の男を囲んでいる輪に向かっていった。
輪の中心にいた女性がヘレンの顔を見かけると手招きし、興奮した口調で呼び掛けた。
「ねえ、ねえ、ヘレン。聞いているでしょ。この方があの有名なイスラエルの武官よ。話がとっても面白いの。今始まったばかりだからあなたも一緒にお聞きになったら。」
女性は夫の上役の夫人であった。ヘレンは輪の中心の男性に挨拶すると一歩下がって遠慮がちに彼の話に耳を傾けた。話に魅了されていた女性たちは次から次へと男に質問を浴びせかけた。ここでは夫の序列がそのまま夫人たちの序列である。ヘレンが質問することなど許されない。彼女は遠慮会釈のない夫人たちのやりとりを静かに聞いていた。日頃のパーティーで話題のリーダー役を務める彼女にとってそれはある意味苦行であった。
男が話につかえると女たちが四方八方から口をはさむ。それに対して男は少し考え込んだ後、言葉少なに答える。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます