石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(19)

2010-10-04 | 中東諸国の動向

さまよう3羽の小鳥(1)
ナタンズ爆撃作戦の任務を終えたイスラエル空軍の3機の戦闘機は追手を振り切ってイランの領空外に抜け出した。

しかしそこで待ち受けていたのは進路を南にとりペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かえ、という指令であった。程なく司令部から、給油機がサウジアラビア領内で撃墜された、との驚愕すべき情報がもたらされた。当初の作戦では往路と同じルートでイスラエルに帰還する途中に空中給油機が出迎え、燃料を補給して基地に戻ることになっていた。親鳥が3羽の小鳥の労をねぎらい餌を腹いっぱいに与え、そして全員で意気揚々と基地に舞い戻る予定だったのである。

その親鳥の出迎えがないまま3機は当てもなくペルシャ湾上空を南下した。残された燃料はあと1時間程度しかなく、ホルムズ海峡を越えることもできないことは確かだ。このままではペルシャ湾に不時着する他なく、墜落前にパラシュートで脱出したとしても、誰が彼らを拾い上げてくれるのだろう。左岸はさきほど空爆したばかりのイラン、右岸はサウジアラビア、バハレーン、カタール、UAEなどイスラエルの仇敵のアラブ諸国である。イランの巡視船或いは漁船に助けられたなら目も当てられない。かと言ってアラブ諸国の哨戒艇か漁船に助けられたとしても晒し者にされることは間違いない。いずれにしてもパイロット達にとっては勝利の凱旋どころではなさそうだ。

不安に駆られたパイロット達の反応は三者三様であった。「エリート」は内心の動揺を抑えリーダーとして冷静沈着さを装った。彼は僚機の「マフィア」と「アブダラー」に落ち着くように諭し、指令部が何らかの救出作戦を講じるに違いない、と元気づけた。確信があった訳ではない。しかしこれまでもイスラエル軍はどのような困難な状況でも決して仲間を見殺しにすることはなかった。司令部は必ずや自分たちを救出してくれるはずだと「エリート」は信じたかった。

彼の根拠の一つ。それは米軍がペルシャ湾内に展開していることであった。バハレーンには第五艦隊が配備されており、またカタールのウデイドには米中央軍の前線司令部があった。さらに湾内のホルムズ海峡近くには現在原子力空母「ハリー・S・トルーマン」が遊弋しているはずである。

<作戦本部は米軍を動かして自分たちを救出してくれる。親父がそれに一枚かむに違いない。>

「エリート」と僚機の3機は雲一つない紺碧の空と穏やかなエメラルドグリーンの海の狭間を飛び続けた。

(続く)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

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