工作台の休日

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5月のことですが・・・イタリア映画祭2023

2023年06月06日 | ときどき映画
 ちょうど一か月前のこと、連休前半の体調不良で大変な状況の中、少しばかり体調が回復していたのと、チケットも買ってあったので、有楽町朝日ホールで開催のイタリア映画祭に行ってきました。会場の朝日ホールの開催も久しぶりです。私が観たのは3本ですので、ほんの一部ではあります。いささか、どころかだいぶ旧聞に属しますが、これから大阪でも上映されるそうですし、配信でも予定があるということですので、私の感想などを・・・。
1 あなたのもとに走る(リカルド・ミラーニ監督)
 ミラーニ監督は「ようこそ、大統領」、「これが私の人生設計(映画祭公開時は「生きていてすみません」)」、「環状線の猫のように」といった作品で映画祭でもおなじみで、分かりやすいコメディを撮る監督というイメージです。本作はフランス映画「パリ、噓つきな恋」のリメイクです。
 ビジネスで成功し、プレイボーイの主人公ジャンニ(ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ)が、あることから(それもやや、というかかなり不純な動機で)車椅子の障害者のふりをすることになります。ふとしたことで出会った美女キアラ(ミリアム・レオーネ)は車椅子の音楽家であり、車椅子テニスの選手でもありました。恋に落ちたジャンニですが、いつか本当のことを言わなくてはならなくなり・・・というのがあらすじです。
 ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(「RUSH プライドと友情」でラウダのチームメイト、レガツォーニを演じていましたね)扮する主人公は見ていて滑稽に映るくらいのプレイボーイぶりで、時には金と力でなんでも解決するようなタイプです。その行状にはおもわず「コイツ本当にどうしようもねえな」とスクリーンに向かって何度もつぶやきたくなるくらいです。ミラーニ監督というと、一人一人がよりよい生き方をすれば、自分たちの社会はもっと良くなる、というようなメッセージを感じ取ることがあり、主人公もまた、より良い生き方に変わって行こうとするようなところがあります。本作も多少ではありますが、そのテイストを感じ取ることができます。映画祭のガイドブックによれば、フランスとイタリアでは笑いのツボも違うので、イタリアの観客に合うようにするのに苦労したとのことですが、日本でも十分受ける感があります。
 そして、秘書役の中年女性が常識の世界の側からツッコミを入れてくるあたりや、オリジナルには無い、皮肉屋ではあるけれども世知に長けたキアラの祖母というキャラクターもまた、ミラーニ監督らしさかなと思います。この祖母役のピエラ・デッリ・エスポスティは本作の撮影後まもなく亡くなったそうです。
 このところ夫人のパオラ・コルテレージを起用した作品が多かったミラーニ監督ですが「環状線~」の続編も撮られているようで、こちらは日本では公開されていませんが、どんな話になっているのでしょうか・・・。
 それから、主演のピエルフランチェスコ・ファヴィーノの出演作品は、今回何作か上映されています。押しも押されぬスターですね。もともと重厚な作品のイメージがあるのですが、コメディも十分いける俳優さんなのと、プロフィールを調べたら私と同い年なのに驚きました。

(公式ガイドブックより。ミリアム・レオーネ(左)はミス・イタリア出身の女優さんだそうです。ミス・イタリアは9月頃に開催され、今はどうなのか知りませんが、テレビガイドみたいな雑誌で特集されるなど、風物詩的なイメージがあります)

2 奇妙なこと(ロベルト・アンドー監督)
 本作はノーベル賞作家の劇作家・ルイジ・ピランデッロの創作の秘密に触れた作品です。ピランデッロは今から100年ほど前に活躍し、代表作に「作者を探す六人の登場人物」などがあります。久しぶりに故郷に帰ったピランデッロの身に起きた出来事が自らの作品のモチーフになっていたら・・・という設定です。私自身ピランデッロの作品には明るくなく、事前に戯曲くらい読んでから出向くべきなのでしょうが、今回は監督、それから主演のトニ・セルヴィッロ、さらに本作に出演した監督の娘で女優のジュリア・アンドーの三人が来日、舞台挨拶をされるというのでそれもあって観た次第です。それもあってかこの回は満席でした。トニ・セルヴィッロの作品は昨年の「笑いの王」など何作も観ており、分かりやすいエンターテイメントより芸術性のある作品で見かける俳優さんです。ちょっとでも演劇をかじった方なら、その静かなたたずまいから見せる感情だったり、凄味だったりが見て取れるのではないでしょうか。あいさつでは監督の「谷崎(潤一郎)、川端(康成)、アンナ・カレーニナを知らないまま過ごす世界なんてつまらない」という言葉が印象に残ったのと、初来日のトニ・セルヴィッロが日本人の所作などを含めて初めての日本の印象を語っていたのが、我々日本人も気づかなかったところで印象的でした。また、舞台と映画の役作りの違いについても語っていました。トニ・セルヴィッロは日本滞在中にダンテをテーマにした朗読劇をイタリア文化会館で上演したということで、時間が許せば観に行きたかったところです。朗読劇、イタリアの役者さんはみんな好きですね。彼の地のテレビでも放映されたりしています。
 ちなみに本作ではSLが客車列車を牽引するシーンがありましたが、エンドロールに「イタリア鉄道財団」(Fondazione FS)の名前があったことから、古い車輛のレストアなどで最近名前をよく見かける同団体が車輛を提供したのでしょう。もしかすると映画で描かれた時代より、少し新しめの車輛かもしれませんが、そこはどこの国でもよくあることですから・・・。

(ロベルト・アンドー監督)

(トニ・セルヴィッロ。スクリーンでおなじみの表情ですが・・・)


(ジュリア・アンドー(左)とこんなにこやかな表情も見せていました)

3 キアラ(スザンナ・ニッキャレッリ監督)
 この作品はアッシジの聖フランチェスコに帰依した聖女キアラの半生を描いています。フランチェスコではなくキアラにスポットを当てたというのも興味深く、観てきました。この人たちが活躍したのは日本で言えば鎌倉時代の初めなのですが、キアラが多くの女性たちの支持を集め、キアラ自身も男性中心のローマカトリック教会の中で、自らの地位を築くべく「戦う」姿が、ところどころミュージカルタッチで描かれます。起こしたとされる数々の奇跡も、他の作品なら「科学的」に描いてしまうところを、奇跡は奇跡として特別な解釈もせず描いているのがかえって潔い感があります。
 この作品、主人公のキアラを演じたのはマルゲリータ・マッズッコという20歳の女優さんです。枢機卿役のルイジ・ロカーショら中堅・ベテラン俳優が若い主演女優を支えることになるかと思いきや、堂々たる演技が印象に残りました。

(マルゲリータ・マッズッコ。公式ガイドブックより)
 
今年も映画祭では硬軟取り混ぜてさまざまな作品が上映されました。私は見ていませんが、アルド・モーロ元首相誘拐・暗殺を描いた「夜のロケーション」は5時間に及ぶ長い作品だったそうです。それにしてもモーロ元首相暗殺というテーマ、直接的、間接的を問わずイタリア映画でよく扱われています。それだけ戦後イタリアにとって大きな出来事だったのでしょう。私も子供心にショッキングな事件でしたが。

この時は一作見るごとにくたくたになっていましたが、なにか遠い昔くらい、5月の連休が前のことに感じています。





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