Nobさんの愛称で親しまれたイラストレーターの下田信夫さんが亡くなられて1年と少し経ちました。丸くデフォルメされた航空機のイラストで知られ、雑誌・書籍だけでなく、近年ではプラモデルのキットの箱絵や航空自衛隊の部隊のパッチ(フライトスーツなどに付けるワッペン)のデザインなども手掛けられていました。私が下田信夫さんの名前を知ったのは1980年代初頭のことで、今はなき月刊誌「航空ジャーナル」誌の一コマ漫画などを通してでした。後に模型誌等でも活躍され、近年ではときどき購入するスケールアヴィエーション誌でイラストを拝見しておりました。
この一年で遺作ともいうべき作品集や雑誌の連載をまとめたものが出版されております。遅くなりましたが、今日はその中から私が買った書籍をご紹介します。
「スケールアヴィエーション」での連載をまとめたのが「Nobさんの航空縮尺イラストグラフィティ」(レシプロ編、ジェット編 いずれも大日本絵画)です。こちらは同名の連載記事を再構成したものですが、それ以外にも他誌の読み物等が再録されています。連載記事の方はご存知の方も多いと思いますが、1ページ上半分に毎月1機種ずつ主に軍用機のイラストが描かれ、下半分に実機の説明がされています。丸くデフォルメされてはいますが、実機のパネルラインや細部の特徴的な部分などは省略せずに細かく描かれていますので、誰が見ても「あっ、あの飛行機だ」と分かるわけです。
私は下田信夫さんのトレードマークである「一コマ」イラストだけでなく、読み物の挿絵も好きでした。デフォルメはされていますが各機体の特徴はしっかりとらえていましたので、文章とともに想像力をかきたてられ、素晴らしい効果を与えていたように思います。以前、航空ジャーナル社から下田信夫さんをフィーチャーした「飛行機王国Nobランド」という増刊号が出版されており、ここでも読み物と挿絵を通してフェアリー・ソードフィッシュの活躍を知ったり、アメリカの「空の冒険野郎」たちの逸話を知ることができました。
「遺作集」として出版されたのが「球形の音速機(廣済堂出版)」です。こちらは下田信夫さんの没後、仕事場に遺された原画からセレクトした作品をそのまま掲載したもので、ほぼ1ページに1枚ずつ、さまざまな航空機が掲載されています。軍用機だけでなく、初期のレシプロ機、戦後の旅客機なども随分描かれています。
また、本書の巻末には「航空ジャーナル」誌の編集後記に添えられた1コマ漫画も再録されています。こちらは当時の世相を切り取ったものや、少々ブラックな内容のものもあり、10代で駆け出しの飛行機ファンだった私にはすぐに漫画の意味が分からないものもありました。本書に再録されるにあたって、それぞれの「種明かし」もされていますので、あの時意味をいろいろ考えた私にも答えがプレゼントされた感じです。
「航空ジャーナル」誌は、「航空情報」、「航空ファン」といった雑誌よりも後発でしたが、それゆえに若さやエネルギーが誌面からあふれていました。また、雑誌の名前のとおりジャーナリスティックな内容も持ち合わせていましたが、そんな中で下田信夫さんのイラストがスパイスになっていたり、息抜きにもなっていたことを思い出しました。「球形の音速機」でも当時のスタッフの方々が寄稿されており、雑誌編集やイラストの舞台裏も知ることができました。
下田信夫さんはネット環境などは持たず、携帯電話も持たない、という方で、連載に必要な資料などは「覚書」と記されたノートに、どの書籍に対象となる機体の写真が載っているかなどを細かくメモされ、それを元にイラストを描かれていたそうですし、海外の航空博物館を訪れた際にはイラストを描くために使うのか、細部写真を数多く撮られていたそうです。私などは模型作りで分からないことがあるとついつい横に置いたスマホで調べて必要な情報だけ手に入れようとしてしまいがちですが、どの雑誌に何が、というのは自分で調べて記録(記憶)しないと分からないものでもあり、それだけ自分の目と頭を使うわけですから、情報の収集と活用という意味ではこういった時間と手間のかけ方も大いに意味のあることと気づかされた次第です。
丸くデフォルメされたイラストが下田信夫さんのトレードマークではありますが、デフォルメしていない飛行機の絵も時には描かれており、とても美しいものばかりです。「飛行機王国Nobランド」のご本人のインタビューによれば、デッサンを学ぶために学校にも通われていた、とありました。丸い機体も実は正確なデッサンから生まれているものであり、だからこそデフォルメしても破綻が生じないのかなと思いました。デフォルメされていない機体のイラストを後年見かけることはほとんど無かったかと思いますが、1980年代の航空ジャーナル誌の別冊などで、めずらしい「デフォルメなしの」航空機のイラストなどを見ることができます。
絵の才能の無いわたくしは、今日もNobさんの美しいイラストを眺めながらため息をつき、イラストと同じく味わい深いお酒をいただくくこととしましょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/56/61856d412d18027d969d96d277d17ef5.jpg)
SWEET製・96式艦上戦闘機のキットとシーキング(海上自衛隊)のキットの箱絵。キットも箱絵もgood!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/7f/74ccb674263cc4292d8bc33737e181fb.jpg)
私の好きなイラストの一つ。模型誌「レプリカ」の表紙と、デフォルメされていない航空機のイラストを表紙デザインにした航空ジャーナル別冊「ザ・チャレンジャー」。10代の頃、後者を通じて「リノ・エアレース」やダリル・グリーネマイヤーと彼の自作のF104の事を知りました。
この一年で遺作ともいうべき作品集や雑誌の連載をまとめたものが出版されております。遅くなりましたが、今日はその中から私が買った書籍をご紹介します。
「スケールアヴィエーション」での連載をまとめたのが「Nobさんの航空縮尺イラストグラフィティ」(レシプロ編、ジェット編 いずれも大日本絵画)です。こちらは同名の連載記事を再構成したものですが、それ以外にも他誌の読み物等が再録されています。連載記事の方はご存知の方も多いと思いますが、1ページ上半分に毎月1機種ずつ主に軍用機のイラストが描かれ、下半分に実機の説明がされています。丸くデフォルメされてはいますが、実機のパネルラインや細部の特徴的な部分などは省略せずに細かく描かれていますので、誰が見ても「あっ、あの飛行機だ」と分かるわけです。
私は下田信夫さんのトレードマークである「一コマ」イラストだけでなく、読み物の挿絵も好きでした。デフォルメはされていますが各機体の特徴はしっかりとらえていましたので、文章とともに想像力をかきたてられ、素晴らしい効果を与えていたように思います。以前、航空ジャーナル社から下田信夫さんをフィーチャーした「飛行機王国Nobランド」という増刊号が出版されており、ここでも読み物と挿絵を通してフェアリー・ソードフィッシュの活躍を知ったり、アメリカの「空の冒険野郎」たちの逸話を知ることができました。
「遺作集」として出版されたのが「球形の音速機(廣済堂出版)」です。こちらは下田信夫さんの没後、仕事場に遺された原画からセレクトした作品をそのまま掲載したもので、ほぼ1ページに1枚ずつ、さまざまな航空機が掲載されています。軍用機だけでなく、初期のレシプロ機、戦後の旅客機なども随分描かれています。
また、本書の巻末には「航空ジャーナル」誌の編集後記に添えられた1コマ漫画も再録されています。こちらは当時の世相を切り取ったものや、少々ブラックな内容のものもあり、10代で駆け出しの飛行機ファンだった私にはすぐに漫画の意味が分からないものもありました。本書に再録されるにあたって、それぞれの「種明かし」もされていますので、あの時意味をいろいろ考えた私にも答えがプレゼントされた感じです。
「航空ジャーナル」誌は、「航空情報」、「航空ファン」といった雑誌よりも後発でしたが、それゆえに若さやエネルギーが誌面からあふれていました。また、雑誌の名前のとおりジャーナリスティックな内容も持ち合わせていましたが、そんな中で下田信夫さんのイラストがスパイスになっていたり、息抜きにもなっていたことを思い出しました。「球形の音速機」でも当時のスタッフの方々が寄稿されており、雑誌編集やイラストの舞台裏も知ることができました。
下田信夫さんはネット環境などは持たず、携帯電話も持たない、という方で、連載に必要な資料などは「覚書」と記されたノートに、どの書籍に対象となる機体の写真が載っているかなどを細かくメモされ、それを元にイラストを描かれていたそうですし、海外の航空博物館を訪れた際にはイラストを描くために使うのか、細部写真を数多く撮られていたそうです。私などは模型作りで分からないことがあるとついつい横に置いたスマホで調べて必要な情報だけ手に入れようとしてしまいがちですが、どの雑誌に何が、というのは自分で調べて記録(記憶)しないと分からないものでもあり、それだけ自分の目と頭を使うわけですから、情報の収集と活用という意味ではこういった時間と手間のかけ方も大いに意味のあることと気づかされた次第です。
丸くデフォルメされたイラストが下田信夫さんのトレードマークではありますが、デフォルメしていない飛行機の絵も時には描かれており、とても美しいものばかりです。「飛行機王国Nobランド」のご本人のインタビューによれば、デッサンを学ぶために学校にも通われていた、とありました。丸い機体も実は正確なデッサンから生まれているものであり、だからこそデフォルメしても破綻が生じないのかなと思いました。デフォルメされていない機体のイラストを後年見かけることはほとんど無かったかと思いますが、1980年代の航空ジャーナル誌の別冊などで、めずらしい「デフォルメなしの」航空機のイラストなどを見ることができます。
絵の才能の無いわたくしは、今日もNobさんの美しいイラストを眺めながらため息をつき、イラストと同じく味わい深いお酒をいただくくこととしましょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/10/56/61856d412d18027d969d96d277d17ef5.jpg)
SWEET製・96式艦上戦闘機のキットとシーキング(海上自衛隊)のキットの箱絵。キットも箱絵もgood!
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/7f/74ccb674263cc4292d8bc33737e181fb.jpg)
私の好きなイラストの一つ。模型誌「レプリカ」の表紙と、デフォルメされていない航空機のイラストを表紙デザインにした航空ジャーナル別冊「ザ・チャレンジャー」。10代の頃、後者を通じて「リノ・エアレース」やダリル・グリーネマイヤーと彼の自作のF104の事を知りました。