Charlie Parker / "Bird" Symbols ( 仏 Musidisk 30 CV 982 )
パーカーのダイヤル・セッションは彼の公式録音の中では最も出来の悪い演奏群であるにも関わらず、昔から代表作のような言い方をされているのが
どうにも気に入らない。パーカーの伝説から受ける印象と最もギャップのあるこの録音を聴いて、「パーカーの凄さがわからない」と感じるなら、
それは正しい感覚だと思う。なぜなら、これらの演奏は凄くないからだ。
"Lover Man" の話を持ち出すまでもなくこの時のパーカーの体調は最悪の状態で、まともな演奏など望める状態ではなかった。私はこのセッションを
聴くと悲しくなるので、ダイヤル録音は嫌いだ。こんなに精彩も閃きもないパーカーは聴いていられない。
但しこのバード・シンボルズには思い入れがあり、悲しいながらも愛着のあるレコードだ。私が初めて自分で買って聴いたパーカーのレコードがこの
アルバムだった。パーカーの法定相続人だったドリス・パーカーが、パーカーの遺産を後世に残そうと非公式録音や買い戻したライセンスを発表する
ために興した "Charlie Parker Records" というレーベルから出されたダイヤル録音の音源を、ファースト・サイドとスロー・サイドに分けて編集した
レコードで、私はスロー・サイド冒頭の "Bird Of Paradise" の虜になった。
"All The Things You Are" をまったく別の曲に塗り替えたこの曲のメロディーの物悲しさがあまりに切なく、胸に突き刺さる。その後に続くバラード群
の哀感深い雰囲気もあり、私の中にはチャーリー・パーカーという人は天才インプロヴァイザーとしてではなく、天才メロディーメーカーとして
その名が刻まれることになった。
このサイドには "Scrapple From The Apple" も収録されているが、パーカーのアドリブ・ラインがあまりにメロディアスなので、バラード群の中に
混ざっていても違和感がない。パーカーの演奏が覇気や殺気が影を潜めているせいで、アップテンポの曲ですらバラードの中に溶け込んでしまう。
本来のパーカーを聴くことができないこれらの演奏を逆手に取った上手い編集で、このレコードは結果的にとてもいい仕上がりになっている。
このタイトルは複数の国で発売されているが、ステレオにリマスターされた盤もリリースされている。ステレオと言っても、元々の録音が楽器毎に
チャンネルを与えられていたわけではないので、楽器を左右に振り分け直す方式ではなく、一塊となった音源全体にエコー処理をかけたような感じ
の音場感でしかない。でも、このやり方が功を奏していて、悪くない聴感を与えてくれる。大きなホールの中で残響感の中に浮かび上がる演奏を
聴いているような感じで、これが悪くない。
パーカーの凄さを聴くというよりは、ノスタルジーを掻き立てる音楽としての効用を愉しむにはちょうどいい感じだ。ダイヤル・セッションを
聴くのは、これくらいで十分だろうと思う。