廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

セシル・ペインとデューク・ジョーダン(4)

2022年12月16日 | Jazz LP

Cecil Payne / S/T  ( 米 Signal S1203 )


セシル・ペインとデューク・ジョーダンがレコード上で共演し始めたのはこの辺りからか。この2人が組んだ演奏には独特の翳りがあって、
そこにどうしようもなく惹かれる。それはレーベルが違っても変わることはないから、どのレコードを聴いても愉しいのである。

ジョーダンと組む前はランディ・ウェストンと組んでいたが、そこでもウェストンの一癖ある音楽性に上手く合わせていたから、
このバリトン奏者は自身の個性を前に出すというよりは、共演相手とうまく融和しながら音楽を展開する方が得意だったのだろう。
おそらくはそのせいでリーダー作が少なかったのだろうと思う。こういうアーティストをキャッチアップするのがうまかったリヴァーサイド
あたりがリーダー作を残してくれていればよかったのだが、そこからも漏れてしまったのは何とも運が悪いというか。

デューク・ジョーダン、トミー・ポッター、アート・テイラーという趣味の良いトリオをバックに、ワン・ホーンとケニー・ドーハムとの二管で
臨んだ演奏は、覇気と憂いが絶妙にブレンドされた傑作に仕上がっている。バリトンという重厚な楽器をデフォルメすることなく、まるで
クラリネットやアルトを吹いているかのように、とてもナチュラルに吹いていく。

バックのピアノ・トリオの演奏の優美さが際立っていて、それがこのアルバムを一流の内容に格上げさせている。ジョーダンがバックでつける
ハーモニーは美しく、それが管楽器奏者のイマジネーションを大きく膨らませているのがよくわかる。ペインのアドリブラインが豊かなのは
ジョーダンのハーモニーが場を先導することで演奏できる空間が大きく拡がるからだろう。そして、アート・テイラーのこれ以上ないくらい
適切な音数のドラミング。アップテンポでも音楽がうるさくないのは、偏にこのトリオのおかげだ。

ドーハムが加わると音楽の雰囲気はパッと明るく華やかになる。ドーハムの音色がきれいで、バリトンもそれに釣られるかのように朗らかになる。
演奏に波があるドーハムだが、ここでの演奏は素晴らしい。落ち着いたタンギングでフレーズのリズム感が安定していて、演奏に覇気がある。
それでいてペインの演奏を邪魔することなく、自分の立ち位置を明確にした演奏で、誰もがベストな演奏でペインを支えているのだ。
こんなにいいレコードが作れて、セシル・ペインもさぞうれしかっただろう。



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4 コメント

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Duke Jordan (松葉蘭)
2022-12-18 16:27:49
 いつも日々の楽しみに拝読しております。ここのところの貴ブログの流れから、当盤を昨日聴き直したばかりでした。ペインの上手さも改めて認識した次第ですが、やはりジョーダンの”この人にしか求めようのない”パッと色彩を変化させてしまうようなピアニズムに強く惹かれます。前出のチャーリー・パーカー盤も、名盤紹介本には紹介されない盤ばかりですが、ジョーダンを愛聴する向きには外せないディスクですね。しかし、東京にはこんなレコードのオリジナル盤がゴロッと転がっていますか。(5)も期待しております。
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Unknown (ルネ)
2022-12-18 16:53:13
こんにちは。
(5)はたぶんありません、すみません・・・キリがいいので今回はこれまで、また機会があれば続きをやります。
Charlie Parker Recordsは安レコなので、そういうコーナーをパタパタやってると、時たま出てきます。
コレクターは見向きもしないので、買うのは容易ですね。こういうので喜んでいるのはきっと私だけなんでしょう。
いいレコードだと思うんだけどなあ・・・
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Unknown (avengerv6)
2022-12-18 17:34:02
こんばんは
この作品、SAVOYから再発された”PATTERNS OF JAZZ”で聴いています。
ドーハムがいいプレイしてますね。ウエストン作の2曲が好きです。確かに良いレコードと思います。
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Unknown (ルネ)
2022-12-18 17:47:20
こんにちは。
私もSavoyのマルーンレーベル(RVG刻印なし)を持っています。
マスタリングが違っていて、面白いですよね。シンバルの音の輝きなどは、RVGなしの方が遥かにいいです。
このRVGなしは意外に音が良くて、実は大穴の1枚だと思ってます。
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