Art Pepper Meets The Rhythm Section ( 米 Contemporary C 3532 )
ここ数か月間の記事を振り返ると、世間一般からは全く褒められることのないレコードばかりを愛でてきた。 今後もその姿勢は変わらないと思うけれど、
似た傾向が続くと自分でもさすがに飽きてくる。 その辺りのバランスを取るためにも、たまにはド定番にも手を出す必要に駆られてくる。
私が初めて買ったアート・ペッパーのレコードがこれだった。 もちろん中古の国内盤で、DU新宿店の地下1Fにジャズフロアがあった学生時代のことだ。
当時は復帰後に来日してライヴレコーディングしたビクター盤が新品として普通に売られていたけど、50年代のカタログはどれも廃盤になっていて、更に
今ほどオリジナルもたくさん流通していなかったから国内盤とはいえ手放す人も少なく、中古でも弾数はさほど多くはなかったように思うが、このタイトルに
限ってはよく見かけた。
初期アート・ペッパーが人気があるのはアルトが艶やかな音色で、その音楽が甘く口当たりがいいからだけど、そんな中でこれは4人が極めて高度な技術で
互角に張り合った最も演奏力の際立った力作。 それが入門したての初心者にもウケるような憂いのある洗練さをまとっているところに本当の凄さがある。
だから私も一聴してすぐにハマったわけだけど、その時も今も、A-1 "You'd Be~" の冒頭イントロのガーランドの右手のシングルノートとフィリー・ジョーの
殺気だったブラシワークにヤられてしまう。 私にとってこのレコードの1番のピークはこの開始早々のイントロであって、その後は "Imagination" が
終わったあたりから緩やかに興奮は醒めていく。
バラードも少なく、楽曲面での魅力は他の盤に比べるといささか見劣りがする(このレコードのB面が死ぬほど好きだという人はあまりいないだろう)にも
かかわらず、稀代の名盤となっているのはひとえに演奏力の凄さからに他ならない。 世の中には「これのどこが?」と言いたくなるような名盤がたくさんある
けれど、そういう意味ではこれは正真正銘の真っ当な名盤だ。
レコードの溝が擦り減るくらいに何度も聴いてきた演奏なので、もはや新鮮味などはどこにも残っていないけれど、この盤から出てくる「立った」演奏の凄さが
擦り減ることはこの先もないだろう。