廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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あるトランペッターの進化(3)

2024年03月13日 | Jazz LP (Contemporary)

Joe Gordon / Lookin' Good  ( 米 Contemporary Records M 3597 )


ジョー・ゴードンはシェリー・マンのバンドを経て1961年に2枚目のリーダー作を作るが、これが音楽的に見事な進化を遂げた傑作になっている。
西海岸での録音だったのでコンテンポラリーが受け皿になっているが、このレーベルのカラーには馴染まない東海岸的なポスト・ハードバップで、
この音楽的変遷はまるでマイルスのそれを思わせる。ここで聴かれる音楽はまるで現代のメインストリーマーたちがやっているような超モダンな
感覚で、彼のエマーシー録音からの7年間はまるでジャズが辿った70年間に相当するかのような錯覚を覚える。

このアルバムはジャケットにも記載があるようにスタンダードは排した全曲ジョー・ゴードンのオリジナルで、彼がトランペット奏者ではなく
音楽家であることを指向していたことがわかる。単にその時代のジャズを演奏しましたということではなく、自分の中に澱のように溜まっていた
音楽的な想いを自身でメロディー化して演奏したところにその他大勢のアルバムとは一線を画す価値がある。どの曲もわかりやすいメロディーで
構成されていて、この時期に台頭していたニュー・ジャズの影響もまったくない。憂いに満ちた翳りのある楽曲も多数あり素晴らしい出来だ。

相方にはエリック・ドルフィーのエピゴーネンのようなジミー・ウッズを選んでいるところが面白いが、このアルバムは全体の雰囲気がゴードンの
曲想で統一されているので、ウッズの個性もうまくその中で中和されていて適度なアクセントとして機能している。全体の演奏にはキレがあり、
ダレる瞬間もまったくなく、正対してじっくり聴くとそのクォリティーの高さには感銘を受ける。

短い期間の中でこれほど正統的に進化を遂げた人はなかなか珍しいのではないか。真面目に音楽に取り組んだことがきちんと形に残るところが
素晴らしいし、何より音楽が変に捻じれておらず、スジがいいところがよかった。彼の音楽や演奏はこの2か月後の別の録音で途絶えてしまうのが
何とも残念でならない。



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