廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジョージ・コールマンを軸に

2016年11月20日 | Jazz LP (Columbia)

Miles Davis / 'Four' & More  ( 米 Columbia CL 2453 )


抑制と洗練を信条としてきたマイルスが隠していた牙を剝き出しにしたような激しい演奏をしたことで驚異をもって迎えられたこの作品には、そういう
外見上の話とは別に興味深いことがわかる作品でもある。

まず、バンドに入って間もないハービーのまだ未熟さが垣間見れるところ。 マイルスがソロを取っている時にはマイルスのフレーズや音を異様に真剣に
聴いている様子が手に取るようにわかるのが可笑しい。 細心の注意と緊張感をもって親分の一挙手一投足を見守っており、マイルスのフレーズに合わせて
自分のピアノのフレーズを即座に反応させている。 まだまだ小僧だったハービーが親方の話をメモを片手に大袈裟に頷きながら聞いているような感じで、
ちょっと笑ってしまうのだ。 その証拠に、マイルスが吹き終わってジョージ・コールマンのパートになるとまるでホッとしたかのようにリラックスした雰囲気に
変わって、ただコードを鳴らすだけの演奏になり、次にやってくる自分のソロ・パートのために箸休めするかのように力を温存している。

それに、ここに収められたようなアップテンポの曲ではまだまだ従来のハードバップのピアニストたちと似たような演奏でしか対応できておらず、後の彼を
知る我々には意外なほど凡庸なピアノに聴こえてしまう。 他のメンバーたちの速い演奏に煽られて、自分も速いパッセージを弾かなきゃ、という感じで
ちょっと我を忘れているように思える。 "Joshua~Go-Go" のような斬新な曲では途中でギアを入れ替えるためにシフトチェンジして、コードを脱落させて
いくような下降のカデンツァを入れるなどかなり工夫はしているけれど、それでもちょっと音を弾き過ぎだよな、という感じは否めない。 対になるもう
1枚の "My Funny Valentine" の中ではハービー特有の間を十分に生かした新しい響きを持った和声で全体のトーンを支配し始めているけれど、
トータルではまだ発展途上の状態にある彼の姿がこんなにも生々しく捉えられているのがこの2枚のすごいところだと思う。

次にトニーのドラムはもちろん速くて凄まじいけれど、ショーター参加以降のものと比べるとまだまだ表情は単調で深みに欠ける。 タイムメーカーの
天才であるところは十分にわかるけれど、トニーの本当の凄さはこの後に明らかになってくるので、ここでの演奏は私にはちょっと物足りない。

そして、やっぱりこのアルバムのジョージ・コールマンは最高の出来ではないだろうか。 黒人テナー奏者にしてはどことなく内向的で小粒な印象があり、
そういうところがマイナス要因として見られがちなのだが、ここでは正確なタイム感と抜群の技術力で勢いのあるパッセージを連発しているし、理知的に
コントロールされて成熟してシックな音色が素晴らしい。 こんないいテナーは意外と他にはいないんじゃないだろうか。 マイルスがこの人のことを
気に入っていたのは当然だろうと思う。 このアルバムは、ジョージ・コールマンを軸に聴くのが一番いい。

コルトレーンやガーランドがいた頃が第1期、ショーター加入後が第2期、と言われるので、この時期のバンドはまるでプレ2期みたいな扱いになっている
けれど、私はこのバンドのサウンドがとても好きだ。 若いリズムトリオの初々しいサウンドカラーが大人の雰囲気をもったテナーを際立たせていて、
マイルス・バンドの歴史の中では最も清々しい色合いを放っていたと思う。 このサウンドカラーは忘れがたい。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 元祖チャイドルの代表作 | トップ | ハービーの新たな色彩 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Jazz LP (Columbia)」カテゴリの最新記事