黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

愚かな! 北朝鮮の核実験

2009-05-26 06:32:51 | 近況
 「北朝鮮が二度目の核実験」という報に接し、まず思ったのは「歴史」から何も学ばない「人間の愚かさ」ということであり、「窮鼠猫を噛む」というのは例え話の世界だけであって現実政治の世界では通用しない「反撃」理論だ、ということであった。
 次に考えたのは、19年前の「ベルリンの壁」崩壊が明らかにした東西冷戦構造の解体が、極東アジアだけには未だ生き続け、「世界の火薬庫」になっているのではないか、ということであった。「社会主義」とは名ばかりの「金日成思想=主体思想」に身を包んだ武装国家・北朝鮮の存在は、まさに米ソの対立を軸とするかつての冷戦構造をそのまま踏襲したところに成立したように思えるが、「瀬戸際外交」かどうかは知らないが、「核兵器」を保有することによって自国の存在を世界にアピールし、極東アジアに「緊張」を創り出すというのは、何とも馬鹿げた古い政治手法だとしか言いようがない。
 つまり、北朝鮮は1945年8月に起こった「ヒロシマ・ナガサキ」から何も学ばず(というより、核兵器の尋常ならざる威力を自国が保持することによって、国際的な地位を高めるという「迷信」、あるいは国際政治の言葉を換えれば、「核抑止力」理論の信奉者ということである)、人類や地球の「未来」に責任を持たない場当たり的な、言ってみれば「戦争屋」としか思えないほどに「核」を弄ぶ国家だということである。ただ、「核抑止論」の有効性を信じているということになれば、それは北朝鮮指導部だけでなく、日本にもアメリカにも、そしてロシア・中国、フランス、イギリス、インド、パキスタン、イスラエル、イランといった核保有国(核保有を準備している国も含む)の政治指導部の中に存在しているという事実=現実を忘れるわけにはいかない。
 とは言え、北朝鮮の核実験、北朝鮮の指導部は「核」を保有することで自分たちの国家が未来永劫に存続できると信じているのかも知れないが、愚かだな、と思うのは、オバマ・アメリカ大統領は「核軍縮」を口にしたが、僕はアメリカという国家は本質的に(無意識的にも)「モンロー主義」(自国の利益優先主義)を国是としているから、ソマリアやイラク、アフガンへの介入(破壊)を見れば分かるように、いざとなれば他国(北朝鮮)を破壊することに全く躊躇しないということを、北朝鮮は理解していないと思うからである。現に、イラクからの撤退を表明した「(核)軍縮」主義者オバマも、返す刀でアフガンのアメリカ軍を増強するという、「わけのわからない=理解しがたい」政策を採ろうとしている。お互い様だが、「目には目を、歯には歯を」という復讐の論理が如何に馬鹿げたものであるかを、北朝鮮は(そしてアメリカも、日本のある一部「核武装論者」たちも)分かっていないのではないか、そのことを恐れるのである。
 と、このように書くと、またぞろ、どこの誰だか分からないが、ナショナリストを気取って「(黒古の論理は)北朝鮮擁護・日本批判だ」という輩が登場するので、前もって言っておけば、僕は決して北朝鮮の「ミサイル発射実験」(人工衛星発射実験)や「核実験」、あるいは「拉致事件」を擁護する者ではない。それは僕の文章を「悪意」なく読んで貰えば理解して貰えると思うのだが、確認しておけば、北朝鮮であろうが他のどこの国(日本も含む)であろうが、「戦争」や「核開発」に繋がる全ての事象について僕は批判(はんたい)するのであって、そのような文脈で「床屋談義=素人の政治談義」を承知で、しかも1970年前後の「政治の季節」体験を自らの言説の原点としている者の責務として、日本の「戦争推進派」や「核武装論者」を批判しているに過ぎないのである。――タダ、面白いと思うのは、前にも書いたが、僕のブログへコメント(批判)を寄せる人の特徴として言えるのは(ネット上の「書き込み」というのは概ねそのようなものなのかも知れないが)、決して自分の意見や政治的立場・文学的立場を明確にせず、「揚げ足取り」のような批判をするということである。もちろん、「チョウワ」さんのように該博な知識を披露しながら、僕らの考え方の弱点や欠陥を指摘してくれる人もいるのけれど……。
 最後に、ここ30年ほど「ヒロシマ・ナガサキ」の出来事とそれに触発されて書かれた「文学」を中心に関わってきた者として言えば、現在アメリカの所有する最小の核兵器が2発もあれば、平壌市は壊滅してしまうことを北朝鮮の指導部は厳然と認識すべきであるし、今朝のテレビを見ていたらコメンテーターがしきりに「非核三原則を守っている我が国=日本」という言い方をしていたが、「作らず」「持たず」はいいとして、「持ち込ませず」は、沖縄返還に伴う「密約」が明らかにしているように、あるいは横須賀や佐世保が原潜や原子力空母の母港化した現実を鑑みれば分かるように、有名無実化し、戦後から今日まで日本はずっとアメリカの「核の傘」の下で経済発展を実現させてきたこと、そのことは忘れてはならないのではないか、と思った。
 そして、もし本気でオバマが「核軍縮」を実現しようと思っているのであれば、僕としては「隗より始めよ」と言うしかない。口だけでなく、オバマが何らかの形で「核軍縮」に着手したら、僕は彼のことを信用したいと思う。