８月 ２２日

　　　　　　　　　　　　　　　（　稲の花　）



竹竿に乾く鵜網や稲の花　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし



竹薮の裾濃にけぶる稲の花 　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



クレヨンで塗る青空や稲の花　　　　　　　　　　　　　細見綾子



やはらかき輪中の風や稲の花　　　　　　　　　　　　　上杉和雄



稲の花母の遺せし鎌錆びし　　　　　　　　　　　　　　中根多子



大水が置き去りし岩稲の花 　　　　　　　　　　　　　大峯あきら



山の端に大粒の星稲の花 　　　　　　　　　　　　　　石田郷子



田の中に朱き鳥居や稲の花　　　　　　　　　　　　　　礒野多喜男



山里の朝日眩しき稲の花　　　　　　　　　　　　　　　　こころ

８月 ２１日

　　　　　　　　　　　（　　出水＜夏＞・秋出水　　）


出水してかくも濁りし貴船川　　　　　　　　　　　栗田やすし



白日に出水の泥の亀裂かな　　　　　　　　　　　　沢木欣一



秋出水案山子胸まで水漬ける 　　　　　　　　　　八牧美喜子



秋出水流れゆくもの横向きに 　　　　　　　　　　　斎藤夏風



マンホールの蓋噴き上ぐる秋出水　　　　　　　　　栗生晴夫



佛壇の母を二階へ秋出水　　　　　　　　　　　　　森　靖子



根刮（ねこそぎ）の大樹流るる秋出水　　　　　　　坂本操子



川石を庭に残して出水引く　　　　　　　　　　　　水鳥悦枝



庭先に現れし出水の助け舟 　　　　　　　　　　　　安原 葉



鷺二匹即かず離れず出水川 　　　　　　　　　　　　田中武彦

８月 ２０日

　　　　　　　　　　　　（　　水引草、水引の花、金水引　　）



水引草空の蒼さの水掬ふ 　　　　　　　　　　　　　石田あき子



水引草はびこり母をよろこばす 　　　　　　　　　　山田みづえ



石佛に水引草の紅こぼれ　　　　　　　　　　　　　　牧　啓子



帝井の裏の水引咲き揃ふ　　　　　　　　　　　　　　長崎眞由美



山寺の水引草や雨きざす　　　　　　　　　　　　　　厚味當子



水引草一粒づつに夕日かな 　　　　　　　　　　　　　萩原玉子



山雨来て京紅ながす水引草 　　　　　　　　　　　　　渡辺 恭子



塗り剥げし母の庭下駄水引草　　　　　　　　　　　　　　　こころ　　





川の音金水引草に触れてをり 　　　　　　　　　　　　藤田美代子




ゆふぐれの金水引の一條も 　　　　　　　　　　　　　佐々木六戈

８月 １９日

　　　　　　　　　　（　　柘榴の実・実柘榴　　）



岩群に翡翠天に石榴の実　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



熟れざくろ猿がかかへて逃ぐるやに　　　　　　　　　細見綾子



常滑の沖まで晴れて柘榴爆ず　　　　　　　　　　　　矢野孝子



柘榴の実一粒ごとに光り持つ　　　　　　　　　　　　益田しげる



雨催ひ石榴のジャムを煮詰めをり　　　　　　　　　　中川幸子



昨日寸前今日また寸前熟れ石榴 　　　　　　　　　　　林 翔



実石榴や夕日の奥の絵本棚 　　　　　　　　　　　　　能村研三



実石榴の一つ紅濃き翁寺　　　　　　　　　　　　　　日野圭子



石榴割れたり月光に耐へきれず　　　　　　　　　　　 夏井いつき



露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す 　　　　　　　　　　西東三鬼

８月 １８日

　　　　　　　　　　　（　　赤蜻蛉・秋茜・深山茜・のしめ蜻蛉　　）



赤とんぼ御穂田に生れとなめせり 　　　　　　　　　　沢木欣一



雨止んで僅かの日ざし赤とんぼ　　　　　　　　　　　　細見綾子



南部富士一日まぶし赤とんぼ 　　　　　　　　　　　　深見けん二



廃鉱の案内板に赤蜻蛉　　　　　　　　　　　　　　　　奥山ひろ子



赤とんぼ止まる羅漢の胸乳かな　　　　　　　　　　　　片山浮葉



赤とんぼ野川の道を後先に　　　　　　　　　　　　　　中村修一郎



との曇る渡しの空や秋茜　　　　　　　　　　　　　　　安藤一紀



この村の人より多き赤蜻蛉 　　　　　　　　　　　　　今野貴美子



秋あかね卯建の街を縫ひゆけり　　　　　　　　　　　　鈴木みすず



新宿に風つれて来し赤とんぼ 　　　　　　　　　　　　　廣田 幸子

８月 １７日

　　　　　　　　　　　（　　蕎麦の花・花蕎麦　　）



そば畑の花のさかりを富士晴るる　　　　　　　　　細見綾子



蕨姫杉間に白し蕎麦の花　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



花蕎麦や十戸に満たぬ隠里 　　　　　　　　　　　　石丸美代子



夕暮れてひときは白し蕎麦の花　　　　　　　　　　鈴木みすず



一面にそばの花咲く休耕田　　　　　　　　　　　　日野圭子



紫に暮るる山河や蕎麦の花　　　　　　　　　　　　関根切子



地平線丸き蝦夷地や蕎麦の花 　　　　　　　　　　　織田秀子



木曽谷の空深まれり蕎麦の花　　　　　　　　　　　国枝隆生



花蕎麦や畑中にある童子堂 　　　　　　　　　　　　落合千鶴



蕎麦咲いて峡のひと村暮れ残る　　　　　　　　　　神尾朴水



花蕎麦やひとりぼつちの道祖神　　　　　　　　　　山下善久

８月 １６日

　　　　　　　　　　　　　（　　案山子・鳥威し・猪おどし　　）



鳥威茂吉の墓にひびきけり　　　　　　　　　　　　　栗田やすし



出征旗まきつけ案山子立ち腐れ　　　　　　　　　　　沢木欣一



猪おどし向つ山にもこだまして　　　　　　　　　　　細見綾子



山を背に並ぶ案山子の怒り肩　　　　　　　　　　　　松岡美千代



黄門に似せたる案山子脚二本　　　　　　　　　　　　佐藤とみお



村中の田がきらきらと鳥威　　　　　　　　　　　　　関根切子



学校田案山子のどれも名札つけ　　　　　　　　　　　今井和子



モジリアニの女の顔の案山子かな 　　　　　　　　　阿波野青畝



此谷を一人守れる案山子かな 　　　　　　　　　　　高浜虚子

8月 15日

　　　　　　　　　　　　　　（　　終戦記念日・終戦日・敗戦忌・八月十五日　　）



土熱く灼けゐし記憶終戦日 　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



靖国の靖はわが名敗戦忌　　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし



裸寝の覚めて出歩く終戦日　　　　　　　　　　　　　　林　徹



終戦日蛇口の水の漏れ止まず　　　　　　　　　　　　国枝隆生



苦瓜の爆ぜて真つ赤や終戦日　　　　　　　　　　　　都合ナルミ



珊瑚積む墓標八月十五日　　　　　　　　　　　　　　関根切子

　　

叩いても鳴らぬラジオや終戦日　　　　　　　　　　　牧野一古



終戦日妻子入れむと風呂洗ふ 　　　　　　　　　　　　秋元不死男



隣へ貸す八月十五日の大鍋 　　　　　　　　　　　　　寺井谷子



終戦日夕焼くさき水を飲めり 　　　　　　　　　　　　福永耕二

8月 14日

　　　　　　　　　　　　　　　（　　秋海棠・断腸花　　）



女去つて秋海棠の茎紅し 　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



秋海棠馬籠ははしる水ばかり 　　　　　　　　　　　谷 迪子



子規の庭秋海棠の咲き初むる　　　　　　　　　　　　福田邦子



描き遺す妻の裸婦像断腸花　　　　　　　　　　　　　上杉和雄



秋海棠赤し足助の典籍屋　　　　　　　　　　　　　　掛布光子



秋海棠まだ降りたらぬ空の色 　　　　　　　　　　　中野千代



断腸花妻の死ははや遠きこと 　　　　　　　　　　　石原八束



忌の近き子規の机に秋海棠　　　　　　　　　　　　　岸本典子



　醒ヶ井の戸毎に水場秋海棠　　　　　　　　　　　　山本悦子

8月 13日

　　　　　　　　　　（　門火・盂蘭盆会・盆・魂祭・精霊祭　）



盆用意女で混める製米所　　　　　　　　　　　　　　　沢木欣一



花茣蓙を横抱きにして盆の町 　　　　　　　　　　　　　細見綾子



真白なる十団子吊る峡の盆　　　　　　　　　　　　　　栗田やすし



盆の路父ひざつきて狩りはじむ　　　　　　　　　　　　下里美恵子



生垣の刈りあと匂ひ魂祭 　　　　　　　　　　　　　　　片山由美子



門火焚く身籠りし子と幼子と　　　　　　　　　　　　　伊藤範子



石一つ運び来て母門火焚く　　　　　　　　　　　　　　小島千鶴



抽斗の奥に臍の緒魂祭 　　　　　　　　　　　　　　　　村田緑星子



瀬しぶきに洗ひて盆の瓜なすび 　　　　　　　　　　　　鷲谷七菜子



初盆や京より花のお灯明 　　　　　　　　　　　　　　　浜野桃華

☆　　母の初盆となりました