こないだうちに来た髪の長いヒトの抜け毛を、灰皿に移動して、タバコを吸いながら、タバコの先を当ててみる。
すると、くるくるくるっと、パーマンになる。
納豆そばをこってりこってりと皿の中でねじ回し食べる。
そばは食べ終わったが、納豆ばかりが残り、それをまた混ぜ捏ねながら、食べる。
夜明けというのは少し遠い明け方も、夜に覆われた静けさの街で、ブライアン・イーノを聴く。
固定カメラの中に、ヒトが写っては消えていく。
クルマが来ては、止まり、走り、カメラの外に消えていく。
雲海の中から夜明けは次第に始まっていく。
エアコンは、さーさーと音を立てながら、部屋の中を回るが、一定のところにくると、サーモスタットが効き、音を鎮めていく。
「ピーピーピー」「あなたの着ていた抜け殻が、洗い終わりました」
「終わりました 終わりました 終わりました」
次第に、洗濯機は、狂気じみた声に変わり、「終わったよ」と最後に言う。
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「さようならを言う前に・・・」
と武はつぶやき、明けぬ明け方の中、国立競技場を、ゼッケン付けてランニング姿で走っていくと、終着場のテープを抜けて、両手を挙げて走り抜ける。。
観客のもはやいない観客席に、オバマ氏のような笑顔で応える武。
耳の中に、ざわめく歓声が反響する。
それからしばらくのこと、しもた屋に行き、ガラガラと戸を横に引いてあける。
ヒトは奥に居て、出てこない。
「すいませ~ん」と何度か声を出すが、出てこないので、7色ボールペンを勝手に拾い上げ、そこに貼っているシールの小銭を置くと、また、明けぬ夜明けの中に出て行く。
くるりくるりと回し、カチッと押すと、選んだ色が出る。
歩きながら、そうして遊んでいると、部品が分解して、スプリングが飛んでしまう。
スプリングは、まだ暗い空気の中に消えて溶けた。
***
博は、納豆そばを食べ終わると、たばこに再び火をつけた。
アタマのぐるぐる回る感じは、とめどもなく襲い、めまいは、自分を中心に同心円にゆったり回るメリーゴーラウンド。
こたつの中を覗くと、数匹のねずみの家族が相談をしている。
冬に溜め込んだどんぐりを巡っての相談で、博も中に入って相談に乗る。
きしくも、今日は、大寒。
どんぐりの量と、春までの長さを天秤にかけながら、ねずみたちは相談していた。
博は、2杯目のいいちこのお湯割を入れる。
次第に、酔いは眠気につながり、博はこたつの中で、ねずみたちと眠っていく。
***
武の歩く姿が遠くなるにつれて、空が薄い蒼い色に変化していく。
かたちんばのチンドン屋が、ブルースのような音楽を奏でながら、蒼い水中のような夜明けを通過していく。足を手をひきづりながら。
夜明けの電車場には、誰もいない。
「誰もいないのがお似合いだ」と微笑をうかべて、コートのえりを立てる。
するすると、電車は来て、路面を走っていく、武だけの電車が走る。
窓から、朝日が差し込んでくる。
博が眠りに落ちた頃、電車は、その家のそばを通過していく。
無表情な運転手と武だけの幽霊電車が、この夜からあの夜まで向かって走っていく。
でも冬らしいですね。
また、メールくださいね。