Blog: Sato Site on the Web Side

「幻滅のたびに甦る期待はすべて、未来論の一章を示唆する。」(Novalis)

ことしも

2010年01月11日 | Weblog
2010年になってはや十日。新年初めて書きます。

昨年末から続いている映画鑑賞は、今年も続いておりまして、

1/1『めまい』(ヒッチコック)6
1/2『引き裂かれたカーテン』(ヒッチコック)7
1/3『汚名』(ヒッチコック)8
1/4『断崖Suspicion』(ヒッチコック)9
1/9『白い恐怖』(ヒッチコック 1945)10
1/9『キッスで殺せ』(アルドリッチ 1955)
1/10『レベッカ』(ヒッチコック 1940)11
1/11『仁義(赤い輪)』(メルヴィル 1970)

なんて感じで見てます。いやー、もうね、こんな風にヒッチばかり見ていると、そしてその「サスペンス」の仕掛けにうっとりしていると、ぼくが「ダンス」などと呼ばれているもののなかに期待しているのは、実は、他ならぬサスペンスなのだ!とあらためて思わされます。見ながら思い浮かぶのは、黒澤美香のソロ作品のあの場面この場面。「捩子ぴじんがさ『汚名』とか『断崖』とかむっちゃ研究してさ、ダンス作品作ったら、すごいものになりそうなのに!」なんて、Aとおしゃべりしてます。サスペンスに重要なのは「サイン」(サインは反復されることでサインとなる)で、このサインがいかに曖昧にしかし見事なまでに正確に曖昧に設えられているか、これが宙づり状態を作るのです。曖昧に、正確に曖昧に。もうね、これだけ見続けてるとね、時間芸術としてのダンスに必要なのはこれだけといってもいいんじゃないか、とさえ思ってしまう。

あとは、ひとつの方程式のようなものとして見えてきたのは、愛の次元と仕事の次元が絡まって「事件」が起こっているということ。愛はともかく真実なのだよね、言いかえれば「疑惑」や「嘘」が充満するなかで唯一の真実は愛の周辺にある、という設定になっている(そうすることで映画は自らを推進させる力をえる)。ときに愛と仕事は相反し(『汚名』では、男と女は恋愛状態にありながら、スパイという仕事を共有しており、女はその任務で調査対象との結婚を余儀なくさせられている、ここに緊張が生まれ、あまり感動的なワイン倉庫脇のキスシーンへと到達する)、ときに愛と仕事は協力関係にあり(『白い恐怖』では、精神科医の女は愛する男をの疑惑を精神分析によって晴らそうとする)、ときに愛は仕事を捨てさせ、恐怖の渦中へとひとを導く(『レベッカ』)。ともかくも、愛は揺るぎなく真実の近くに置かれている。キスと殺人は、故にヒッチ作品の中で等価に興味深く、示唆的である。

昨日は、ゾルゲルしおり『discharge』(@STスポット)を見た。音楽と美術のゾルゲルプロは、「液体」というか「ゾル」「ゲル」なものが生む、独特の音とか形態変化とかを見せる。それは、まあワンアイディアだから、「それで何?」なんて気にもなるのだけれど、それなりに1時間見てしまう力もある。さて、そうしたものとダンサーはどう拮抗すればいいのか、って話なんですが、んー、モダンとバレエの習作みたいな動作とか、前半のたっぷりとして身体を隠す白いシャツとか、全体としてちぐはぐ感が否めない。多分、ダンサーの好きなものを集めてみました的なことなんだと思うんだけど、その次元の思考から生まれるものは作品にはならないし、表現にも高まらないだろう。見ながら、なぜ自分の体もまた「ゾルゲル」である、なんて発見からはじめないんだろう、と思ってしまった。ダンサー多田の大きな目を覆う液体、涙腺、激しく動けば汗が噴き出るのだし、足の裏さえ、ぬらぬらしてくるだろう。そうして、自分の身体をマテリアルにして、垂れてくるゾルゲルと拮抗させて、はじめて何かが生まれたはずだ。

その後、駆け足で神奈川県民ホール・ギャラリーでの「日常/場違い」展を見に行った。泉太郎。いいよなあ。泉の魅力は、極めて高度に知的な解釈が可能であるばかりか、極めてリラックスした状態に観客を導いて作品へひきつける高いコミュニケーション能力にあると思った。ぼくは昨年の『ステッチ・バイ・ステッチ』展カタログにて「レディメイド」をめぐる論考を書いたのだけれど、まさに泉の作品は、レディメイドの力を上手く引き出すところがある。レディメイド(既製品)というものはなじみのある気取らないフォルムをもっているが故に、見る者をリラックスさせ、コミュニケーションしやすくさせる。ねえ、こういうこと、もっと考えてみようよ(誰にいってんだ?まあ、人類全般に、ね)。ありふれたものは、それを差し出す者にとってのみならずそれを差し出された観客にとってもつき合いやすいものなんだということを。蛇足を言えば、ぼくがいまヒッチで研究しているのは、そうした記号的なもののもつコミュニケーションの効用なのです。