kintyre's Diary 新館

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映画『灼熱の魂』を観て~2011年で最も印象的だった作品

2011-12-20 20:52:22 | ヨーロッパ映画

11-88.灼熱の魂
■原題:Incendies
■製作年・国:2010年、カナダ・フランス
■上映時間:131分
■字幕:松浦美奈
■料金:1,800円
■鑑賞日:12月19日、TOHOシネマズシャンテ

□監督・脚本:ドニ・ヴィルヌーヴ
□原作:ワジディ・ムアワッド
□撮影監督:アンドレ・トゥルパン
□編集:モニック・ダルトンヌ
□美術:アンドレ=リン・ボーバルラン
□音楽:グレゴワール・エッツェル
◆ルブナ・アザバル(ナワル・マルワン)
◆メリッサ・デゾルモー=プーラン(ジャンヌ・マルワン)
◆マキシム・ゴーデット(シモン・マルワン)
◆レミー・ジラール(公証人ジャン・ルベル)
【この映画について】
憎しみと暴力が生む報復の連鎖を断ち切る術をひとりの母親が提示する。主人公は愛する者と交わした約束を守るために地獄のような日々を生き抜く強靱さの持ち主だ。その半生を辿る双子の旅はギリシャ悲劇さながらに驚愕の真実を突きつける。
レバノン出身でカナダ在住の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲「Incendies」に衝撃を受けた『渦』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督がダイナミックに映画化した本作。『パラダイス・ナウ』『愛より強い旅』のベルギー人女優ルブナ・アザバルが主演女優賞に輝いたのを始め、カナダ版アカデミー賞に当たるジニー賞で8部門を制覇し、米国アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた魂を揺さぶる秀作である。(この項、gooより転載しました)
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワンは、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンにも心を開くことがなかった。そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった……。

謎めいた様子のナワル・マルワン、秘書として勤務している会社内でも自分の事は殆ど語らず、後見人役でもある経営者も彼女から遺言を託されたが戸惑うばかり。そのナワルがプールサイドで彼女だけにしか分からない「何か」に気が付いたことがストーリーの発端で、最初と最後のシーンを挟む形で映画は展開する。
遺言どおり母の過去を知ろうとする姉と気乗りしない弟、対照的な性格の双子、積極的に取り組む姉だったが徐々に母の知られざる過去に辿り着くことで、新たな戸惑いを感じる。一枚の写真から母の出身の中東へと飛び、母が学んでいた大学~出身地へと若かりし時代へと遡る。そこで分かったことは、母ナワル・マルワンはキリスト教徒で、異教徒(イスラム教)の恋人との間に子供を授かった。だが、保守的な村で異教徒との恋はご法度で恋人は銃殺され、お腹の子供も出産と同時に手放すことになった。この時、彼女は「いつか必ず探しに来る」と誓う。

叔父宅へ身を寄せて大学に通うが内戦が勃発し大学は閉鎖され、別れた息子を捜しに故郷へと向かうがキリスト教徒とイスラム教徒との戦争は激化していた。息子に辿り着くこと無くイスラム教勢力のテロリストとして活動しキリスト教右派指導者を射殺したが相手側に捕まり南部の監獄へ送られ、そこで死よりも残酷なこの世の地獄を体験することになる。

双子の姉ジャンヌはこの監獄に母が居たことを突き止め、監獄に15年間幽閉され拷問を加えられ獄中で出産していた事実を知りそれが自分たちだった。しかし父が誰なのかは結局判明しなかったが、兄と思える人物の消息が微かに分かり始めた。
母の故郷での調査では結局父も兄も判明しなかった。だが、母がプールサイドで放心状態に陥ったのは何故だったのか?カナダに戻って双子の姉弟が母から託され渡すことになった手紙の相手は驚くべく人物だった。姉弟が2通の手紙を手紙を渡したのは同一人物だった。

【ネタバレ】生き別れになっていたナワル・マルワンと異教徒の間の子。監獄で母をレイプ、拷問を加えたのは何と「息子」だったが、息子は母だと知らなかった。息子はまだ見ぬ母への思いを胸に抱いてカナダへと移住し、母もカナダへと移住した。母は息子の体にある「目印」をプールサイドで発見した。それをみて母は放心状態に陥いるが、母は決して親子であることを言わなかった。息子がその事実を知ったのは双子からもらった手紙を読んでからだった。「息子は号泣」するが、事実を知ったとき、母は既にこの世にはいなかった。

このストーリーは古代神話オイディプスをベースにした戯曲からの映画化なのだが、作者がレバノン出身であることから映画内では特定されていないものの、舞台はレバノン(ロケ地はヨルダン)であることは明白である。キリスト教徒とイスラム教徒の対立から内戦に突入し国が荒廃して行く様子はレバノンそのものと言える。
一枚の写真から母の知られざる過去を辿って行く過程で双子の姉弟が知った事実は余りにも過酷だったが、母は敢えて自らの口で語るのではなく二人にこういう形で知ってもらいたかったのだろう。そこには母自身の過酷な体験もあり、それを知ることで報復、暴力の連鎖を断ち切ることの大事さを体験してもらいたかった。同性の姉ジャンヌは積極的に調査に参加するが、弟は尻込みしていたが姉に中東まで呼び出され最後には男らしく?積極的に関わるようになったことで、重要な手掛かりを得たのだった。
双子の出自を知ることで非暴力の連鎖を断ち切り、宗教を越えてお互いが理解することの大切さを知ってもらいたかったのだと母は思う。双子の体にはキリスト教徒であった母の血と、その母とイスラム教徒との間に生まれた父であり兄でもある男性の血が二人には流れているからだ。
ラストは二人が目的の人物に手紙を渡す場面で終わって行くのだが、真相を知った渡された方はどういう気持ちで今後の人生をカナダで送るのか、或いは送ったのか?そちらも観終わって気になった。

予告編を観たとき、この映画はどういう展開なのか理解し難かったが、観終わって、間違い無く2011年で最も印象に残った作品です。ストーリーの構成も独立した「章」から成り立っていて分かり易い。主演でナワル・マルワンを演じているのはベルギー出身の女優だが、台詞よりその場その場での状況に応じた表情が全てを語っていたように本人に成りきっていた。

この映画はアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたものの、受賞はデンマーク代表の「未来を生きる君たちへ」だったが、「灼熱の魂」が受賞しても不思議では無かった。もっとも「未来を生きる君たちへ」も良い作品なので受賞は当然だと思います。ただどちらも非暴力に対するメッセージが製作の背景にあるのは共通しています。
日本では拡大公開ではなくミニ・シアター系での上映が中心で地方での上映も僅かなので、上映されない地方での映画ファンにはDVD発売時にご覧ください。


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