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ストラヴィンスキー:『春の祭典』の名盤

2010年12月10日 13時48分59秒 | 私の「名曲名盤選」



 2009年5月2日付の当ブログに「名盤選の終焉~」と題して詳しく趣旨を書きましたが、断続的に、1994年11月・洋泉社発行の私の著書『コレクターの快楽――クラシック愛蔵盤ファイル』第3章「名盤選」から、1曲ずつ掲載しています。原則として、当時の名盤選を読み返してみるという趣旨ですので、手は加えずに、文末に付記を書きます。本日分は「第51回」です。


◎ストラヴィンスキー:「春の祭典」

 『春祭』の録音は、戦前の作曲者自身や初演者モントゥーのものだけでも何種類とある。彼ら二人のレコーディングでは、ストラヴィンスキーはコロンビア響とのステレオ盤、モントゥはボストン響とのモノラル盤が特に推奨できる演奏だ。どちらもスキャンダラスな初演の衝撃的な逸話など無縁なように、気負いのない確信に満ちた演奏で、この曲の「正統」を伝えている。
 その後この曲はマルケヴィッチ、ブーレーズなどによって、時代とともに変貌を続けてきたが、戦後世代のT・トーマス/ボストン響盤は、リズムの軽快な、〈走り〉のよい演奏だ。この演奏の登場によって、かつての革新的バレエ曲は、現代人に耳あたりのよいエンターテイメント・ミュージックへと変貌したとも言える。
 もっと若い世代のラトル/バーミンガム市響盤は、リズムを刻む音の輪郭は一つ一つ大切にし、咆哮する音を手短かにはさみ込んでゆくことで、疾走感を表出することに成功している。「春のロンド」での自在な音の伸び縮みによる耽溺も魅力だ。
 サロネン/フィルハーモニア管盤になると最早、何も堰止めるもののない颯爽としたプロポーションの、駆け抜ける音楽と化してしまう。ここでは、大地に眠る神もいなくなったかのようだ。
 T・トーマス以来、それぞれ個人差はあるものの、いずれも何らかの意味で〈走り〉のよい演奏に注目が集まってきたが、その中でマゼールがクリーヴランド管と行った録音での、各場面の細部を異様にデフォルメした演奏が、七〇年代以降では、突出したアプローチだった。ケント・ナガノ/ロンドン・フィルも、各場面ごとに描き分けてゆく〈語り物〉的な達者さで聴かせるが、マゼールが原色の対立で鋭角的に表現しているのに対して、ナガノは、色彩相互の融合を基本にしている。この曲の演奏の、新しい傾向と言えるだろう。

【ブログへの再掲載に当たっての追記】
 もうずいぶん長いこと、この曲を聴いていません。久しぶりに自分の書いた文章を読み直して、「さて、その後、どんな演奏があっただろう」と考えましたが、思い出せません。この曲が、「刺激的」であった時代は、完全に過去のものになっています。つまり、この曲をどのように演奏するか、ということが、取り立てて話題にはならないほど、スタンダード名曲的な収まりを持ってしまったということでしょう。新人指揮者が、「僕は、こうだ!」とメッセージを出す曲目ではなくなったのです。
 でも、ここまで落ち着いてしまうと、そろそろ、とんでもなく斬新な演奏が現れてくるようにも思います。
 文中に出てくるラトル/バーミンガム市響の演奏は、私が初めて『レコード芸術』誌に書いた原稿のテーマでした。その時は、私は、ラトルの「新しさ」にびっくりしたものですが、当時、それを感じる聴き手は少なかったのです。その時の原稿は、当ブログで2~3年ほど前に再録しました。ご興味のある方は、この画面の左欄をず~っと下へスクロールして、「ブログ内検索」の文字列に「ラトル」と入れれば、出てきます。ほかのラトル関連も出てきますが。その際、20歳のラトルデビュー時の「春の祭典」録音(学生オーケストラを振ったものです)のCDに私が書いたライナーノートも出てくるはずです。合わせてお読みいただけるとうれしいです。
 マルケヴィッチは、発売当時は、一種の「野獣派絵画」世界のようにもてはやされた演奏ですが、私がこの聴き比べ原稿を書いた時点では、それほどのインパクトはありませんでした。世の中の日常の方が、よほど騒々しかったのです。
 むしろ、60年代後半だったと思いますが、カラヤン/ベルリン・フィルの滑らかな演奏とバーンスターン/ニューヨーク・フィルのモノクロ映画のような奇妙な色彩感の世界などが、思い出されます。
 ここまで書いて、思い出しました。昨年、『クラシック反入門』(青弓社)に書いたユージン・グーセンス/ロンドン響の演奏は、ちょっと興味深いものでした。181ページに載っています。グーセンスはイギリスでのこの曲の初演者だそうですが、ある意味ではモントゥやマルケヴィッチも含めて、バレエのショウピース風なアプローチの派手な見せ場を意識した演奏が当たり前だった時期(1950年代)の、落ち着いたコンサートピースとしての作品演奏の原初的演奏かも知れないと思いました。


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コメント
 
 
 
Unknown (通りすがり)
2017-02-01 13:03:26
久々にモントゥーの春の祭典でも聞こうかなとあれこれ取り出していたら、96年10月にBMGから発売されたモントゥーの芸術2for1という2枚組に竹内先生のライナーノーツがありました。
「現代音楽の古典の最も標準的な演奏」と書いておられて全くそうだなぁと思いながら聴いております。
 
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