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フランク:『交響曲ニ短調』の名盤

2010年02月26日 12時14分49秒 | 私の「名曲名盤選」



 2009年5月2日付の当ブログに「名盤選の終焉~」と題して詳しく趣旨を書きましたが、断続的に、1994年11月・洋泉社発行の私の著書『コレクターの快楽――クラシック愛蔵盤ファイル』第3章「名盤選」から、1曲ずつ掲載しています。原則として、当時の名盤選を読み返してみるという趣旨ですので、手は加えずに、文末に付記を書きます。本日分は「第37回」です。



◎フランク:交響曲ニ短調

 この曲では、各主題・動機のつながりを明瞭にしながら、オルガンの大家でもあった作曲者が求めている重層的な音響を実現することが大切だ。また、息の長いフレージングで粘りのある音楽を持続させることも望まれる。
 アンドリュー・デイヴィス/ニュー・フィルハーモニア管盤は、副旋律との巧みなバランスで曲の構造をくっきりと聴かせる第一楽章から、重すぎない響きを確保しながら、充実した粘りある音楽のうねりを聴かせてくれる。第三楽章も弦のトレモロを少々引きずりながら、管の輝かしいフレーズを高らかに鳴らす色彩感に対する配慮もよく行届いている。指揮者もオケもベスト・コンディションと言ってよい力演だが、決して前のめりな音楽にならず、この曲の第一、第三楽章のアレグロが、いずれもノン・トロッポ指定であることの意味が納得できる、感性と情熱の均衡のとれた演奏だ。
 バルビローリ/チェコ・フィル盤は、たっぷりと溜めた深い呼吸で、繰り返し寄せては返すフレーズの淀みない揺れ動きや、優しい慰めを湛えた木管の響きなど、大きくうねる音のドラマを「全身で表現した」と言えるような感動的名演。
 モントゥ/シカゴ響盤は、抜けの良い乾いた音づくりに徹している。うねらず、粘らず、引き摺らず、くっきりとした音の輪郭を手際よくたどって行く。しかし、エネルギッシュな力強さは失われていない。第二楽章での克明な表現も、モントゥならではの名人芸。終楽章ではラテン的な明るさを引出しながら堂々と結んでいる。
 シャイー/コンセルトヘボウ管盤は、この曲のオルガン的響きを配慮したシャイーの、金管群に重きを置いた弦とのバランスを保つオーケストラ・ドライブに、応えるオケも底力を感じさせる素晴らしい響きだ。最近の録音では理想的な演奏の一つだ。


《ブログへの掲載にあたっての追記》
 この文章に付け加えることがあるとすれば、モノラル時代のもので、フルトヴェングラー指揮の英デッカ正規盤と、クリュイタンス指揮の仏パテ(EMI)盤かも知れません。この曲が生まれた背景にあるフランス近代前夜のドイツ絶対音楽に対するコンプレックスを考えた時、フルトヴェングラーのドイツ・ロマン派音楽に寄った演奏と、クリュイタンスの徹底してフランス近代の響きへの傾斜とは、好対照です。そして、その両者の背景にあるもの、フルトヴェングラーにとっては、その戦後に端緒に着いたばかりだった明瞭な響きの追求が、クリュイタンスにとっては、ベルギー国内に根強くあるドイツ的響きからの脱却が、それぞれ、この曲を媒介にして、とても顕著に感じられます。興味深い演奏を引き出す要素を持った曲なのです。








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