対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

入学式のなかのロドス

2014-12-16 | 跳ぶのか、踊るのか。
 「ロドス」で検索していたのだと思う。2013年度の立教大学入学式で、ロドスの箴言が使われていることを知った。総長の吉岡知哉氏の挨拶のなかにあった。新入生にこの箴言を送り、激励している。こういうふうにも使われるのかと思った。 
 挨拶の後半を引用する。
近代以降の社会は最大限の効率を求める社会です。情報通信技術とグローバル化が進む現代社会においては、効率化が極限にまで押し進められつつあります。けれども、人間の社会、人間と人間との関係において、効率性はごく一部に関わるものにすぎません。
そして、「学び問い考える」という、大学において最も基本的な営みは、言うまでもなく、効率性には還元できないものなのです。
現在、社会の変化が加速して行く中で、大学には既存の社会と同様の価値観と効率性が求められるようになってきました。もちろん大学も現代社会の構成要素ですから、社会の動向と無縁ではあり得ません。しかし大学が社会の中に存在している最大の意義は、その時々の価値観や効率から離れて、より大きな時間的・空間的なスパンで、全体を俯瞰する役割を負っているという点にあります。

しばしば大学で学ぶ知識は実社会では役にたたない、という言い方がされることがあります。皆さんも大学を出て外の社会で働くようになったときに、大学で学んだ知識が役に立たないと思うことがあるのではないかと思います。
しかし、皆さんが大学で真剣に学び、考えたのであれば、その知識が役に立たないということが、後悔と結びつくことは決して無いでしょう。そのとき皆さんは、大学で身に付けたものが、個々の知識を超えて、ものの見方、考え方であったことを実感するに違いありません。

さて、皆さんは次のようなイソップ寓話をご存じでしょうか。岩波文庫から引用します。

「国ではいつも、もっと男らしくやれ、とケチをつけられていた五種競技の選手が、ある時海外遠征に出て、暫くぶりで戻ってくると、大言壮語して、あちこちの国で勇名をはせたが、殊にロドス島では、オリンピア競技祭の優勝者でさえ届かぬ程のジャンプをしてやった、と語った。もしもロドスへ出かけることがあれば、競技場に居合わせた人が証人になってくれよう、とつけ加えると、その場の一人が遮って言うには、『おい、そこの兄さん、それが本当なら、証人はいらない。ここがロドスだ、さあ跳んでみろ』」(中務哲郎訳『イソップ寓話集』)

この寓話には、「法螺吹」というタイトルがついていますが、私は、身の程知らずの法螺は吹かない方がいいと言いたいためにこの話を持ち出したのではありません。
また、イソップ寓話はこれに続けて、「事実による証明が手近にあるときは、言葉は要らない、ということをこの話は解き明かしてる。」と解釈をつけ加えていますが、ここではその解釈に従うつもりはありません。
19世紀ドイツの哲学者ヘーゲルは、『法の哲学』の序文で理性と現実との関係について語るときに、「ここがロドスだ、さあここで跳べ」というこの言葉を引いています。また、マルクスが『資本論』の中でこの言葉を使っていることも知られています。
解釈は色々あるのかもしれませんが、私はよく使われるように、「今この瞬間、この場所こそが、実力を発揮する場所だ」、あるいは、「今ここにある現実に、全力で向かい合え」という意味で用いたいと思います。

長い注釈になりましたが、皆さんが、「自由の学府」であるここ立教大学で全力で飛躍することを期待して、「ここがロドスだ、さあここで跳べ」という言葉を送り、祝福の挨拶といたします。

入学おめでとうございます。
 このロドスの箴言は、イソップのものと明確に区別され、的確に使われていると思う。「ここがロドスだ、さあここで跳べ」を「今この瞬間、この場所こそが、実力を発揮する場所だ」、「今ここにある現実に、全力で向かい合え」という意味で用いるのは、正しいと思う。そして、これはイソップものともヘーゲルのものとも違い、マルクスのものといってよい。しかし、マルクスは『資本論』でこの言葉を使っているというのは通説であって、誤っている。実際には、使っていないのである。マルクスはHic Rhodus, hic salta!と書いているだけである。これは「ここがロドスだ、さあここで跳べ!」ではないのである。また「ここがロドスだ、ここで踊れ!」でもないのである。
 これは私の「学び問い考える」過程から生まれた見解である。「跳ぶのか、踊るのか。――ロドスはマルクスの薔薇」を読んで考えてもらいたいと思う。

     跳ぶのか、踊るのか。――ロドスはマルクスの薔薇

 さて、吉岡総長の祝福を受けた新入生は、いま2年生になっている。かれらは「ここがロドスだ、さあここで跳べ」をおぼえているだろうか。

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